読み物BOOKS

1999.10.01

プチトマト 1999年10月号

 骨粗鬆症という病気があります。骨の中のカルシウムが減って、骨が弱くなってくる病気です。大根に「す」の入ったような状態、というのが、この病気の意味です。骨がすかすかになって、弱くなり、折れやすくなるのですね。この病気は、あまり男性には見られません。ほとんどが女性です。どうして、女性に多いのでしょうか?
 骨の中のカルシウムなどのミネラルの量は、成長と老化に伴って変化します。生まれてから20代後半までは徐々に増えていきます。そして、男女共に、30歳くらいにピークとなります。しかし、残念なことに、そのピークの値、つまり、骨密度が、男女では大きく離れているのです。女性は男性よりも低い値です。
 その後、女性には、骨の中のカルシウムを消費するような出来事が、次々と、起こります。もともと、骨というのは、カルシウムの銀行のような役割をしています。人間の身体には、寒いところでも暑くても、食べなくても、食べ過ぎても、どんな状況になっても、できるだけ身体の状態を一定に保とうとする働きがあります。カルシウムは心臓も含めて、筋肉の収縮には大切なミネラルで、血液の中のカルシウムを一定の値にすることは、生きていく上で、とても大事なことなのです。何かの事情で、食事の中のカルシウムが減ったり、たくさんカルシウムを使うような出来事が起こると、血液中にカルシウムを補填しなければなりません。その時に、骨からのカルシウムが消費されるのです。
 30歳前後の女性に起こるカルシウムをたくさん使う出来事といえば、妊娠・出産・授乳です。これで、せっかくピークになった骨の中のカルシウムが奪われることになります。さらに、50歳頃になると、閉経期となります。カルシウムを骨につなぎ止める働きをしている女性ホルモンが、ガタッと減るという大事件です。そのために、骨の中のカルシウムはどんどん奪われていくのです。
 もう一つの要因があります。それは、男性よりも、女性が長生きという事実です。面白いことに、気候や風俗・習慣の違う世界中のどんな国でも、女性は男性よりも長生きです。このことは、次第に減っていく骨密度からすれば、悲しい現実を引き起こすことにもなります。つまり、高齢女性の骨折の増加です。
 高齢になると、バランス感覚(平衡感覚)が低下し、また、視力も衰え、足腰も弱ってくるために、少しの段差に対応できずに転倒するような事故が起こりやすくなります。カルシウムが減って強度が落ちた骨に、急な力が加わると、比較的簡単に折れてしまうのです。
 いくつかの典型的な骨折を紹介しましょう。

 

【手首の骨折】つまずいて前にこけ、あわてて手をついたようなときに起こります。高齢者の骨折の中で、一番多いものです。あんまり、勢いがあったために、折れた部分で骨がずれて、変形が強いと、もとの形に戻すようなことをしなければなりません。いずれにしても、しばらくの間、ギプスによる固定が必要となります。それでも歩けますから、日常生活は不便ではありますが、それほど弱ることはありません。
【背骨の骨折】ドアの取っ手を握って起きようとしたら、急に開いたために後ろにしりもちをつくようにこけたという風に、尻餅をつくような体勢で転倒すると起こります。このとき、背骨の縦軸の方向に力が加わるからです。背骨の骨が縦に押しつぶされるような圧力で、変形するのです。急に、ケガとして起こると、痛みで歩けないようになります。しばらく、安静にしていると2-3週間で痛みは楽になります。
 ただ、この変形は不思議なことにいつの間にか起こることもあります。その方が多いくらいです。次第に身長が低くなるのは、何も足がちびてくるのではなくて、この背骨での目減りが原因なのです。同時に、この変形は、縦方向に均等に起こるのではなくて、前の方をつぶすように起こることが多いために、ただ、低くなるだけではなく、背中が丸くなるように起こってきます。レントゲンで変形を指摘されて「『圧迫骨折』です」と言われても、自然に起こって、それほど痛くないものも含まれていますから、あまり骨折という言葉に驚かない方がいいかもしれません。要は、痛みさえなくなってくれば、できるだけ動くことです。
【股の付け根の骨折】家の中で電気のコードに足が引っかかり、横向きにこけたなどという風に、骨盤の横から圧力がかかるようなこけ方をすると起こります。これは、一番厄介な骨折です。痛いことも困りますが、それよりも、足の付け根が傷んでしまうだけに、身動きできなくなることが問題です。自然にくっつくのを待っていると数ヶ月もかかるので、その間に、寝たきりになってしまいます。そんなに長い間寝ていると、床ずれもできてしまいますし、頭も惚けてくる可能性があります。ですから、全身状態を調べて、安全を確かめた上で、できるだけ早く起こせる方法として、手術をすることになります。年を取ってからの手術ですから、ご本人も嫌ですし、周囲も心配でなりません。しかし、そのまま寝かせていても、ろくなことはないために、思い切って決断するわけです。

 

 この骨折は、私が医師になった頃と比べて、格段に数が増えてきています。その理由は、一つは寿命が延びてきたことです。極端な言い方をすれば、以前は、骨折が起こるまでに亡くなっていたということになります。また、この骨折は圧倒的に女性に多く見られます。最初に申し上げたように、女性は、骨の中のカルシウムが、男性よりも低くて、しかも、妊娠・出産・授乳・閉経と、条件の悪い環境で老化し、その上、長生きですから、残念なことに骨折を起こすことが多くなってしまうのでしょう。
 私は男性として、誠に申し訳ないような気持ちになります。家事労働や育児、さらには介護で苦労をかけた上、年を取ってから辛い思いをさせるというのでは、「あんたら、ほんまにずるいな」となじられても、返す言葉もありません。こんな不公平で、悔しい事態を何とかする方法はないのでしょうか、考えてみました。
 一つは「若い時代の対策」です。やせ形の体型が好まれる現代では、少女たちは太ることを警戒します。極端に食べない人たちもいます。ダイエットと称して、バランスの悪い食生活を送り不健康な印象を与える子供たちも多く見ます。実は、これは大変危険な兆候です。なぜなら、本来できるだけ高い値になってほしい骨の中のカルシウムの値が、こういった生活習慣によって、それほど上がらないことになるからです。一旦ピ-クの時代を過ぎると、後は残念ながら下がる一方なのですから、このピークの値はとても大切なのです。無理なダイエットは戒めるべきだと私は思います。
 次は、「栄養」の問題です。カルシウムをたくさん含んだ食品を摂ることは、骨からカルシウムの支出をさせないために、大事な対策となります。しかし、せっかく摂ったカルシウムも腸から吸収されなければ何にもなりません。吸収を促す役割を持っているのがビタミンDです。これは、皮膚の下で紫外線を浴びると働きが活発となります。牛乳を飲んで、「日光浴」をすると、カルシウムは良く吸収されることになりますね。でも、実は、じっとしていては、せっかくの骨の中のカルシウムも徐々に流れ出ていってしまいます。
 そこで、最後に重要なのが、「運動」です。要は、重力をかけることです。つまり、立った状態でいることが大切なのです。無重力でいたり、水中で生活をすると、骨が弱ってくることが分かっています。歩くとか、体操をするという風に筋肉を使えば、血の流れも良くなって、ますます骨には良い影響を与えます。
 結局、栄養に気をつけて、できるだけ日光を浴びながら運動するように散歩に出るということが、骨粗鬆症の予防対策ということになります。男性よりも長い寿命を、楽しめるのか、苦しむ結果となるのか、今の生活の中に、解決方法が潜んでいることを、忘れないでください。
 誰ですか、「あんたは、ええよな。はよ、死ぬから」なんて言ってるのは…

>>プチトマト 1999年11月号

 



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