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1999.11.01
手術というのは、誰でも嫌ですよね。注射もそうですが、医者にとって、治療方法が快適なものばかりではないのは、悩みの種です。「良薬、口に苦し」と言いますが、確かに、よく効く方法は、受ける人にとって、楽なものはほとんどありません。21世紀には、どんな新しい方法が開発されるのか、今から楽しみにしています。
さて、整形外科でも、私の得意分野は、スポーツ選手に起こる外傷や障害の治療です。島田病院の場合、受診される患者さんのうち、スポーツ選手は三分の一程度です。しかし、年間の手術約1,000件のうち、6割はスポーツに関連したものです。つまり、受診される数はそれほど多くないのに、手術を受けるスポーツ選手は多いということになります。昔は、「スポーツ選手はメスを入れられたらおしまいや」などと言われました。どうして、今は、こんなに多くのスポーツ選手が手術を受けるのでしょうか?
スポーツ選手が、病院を受診する状態は、さまざまです。歩くこともできないようなケガでは、仕方なしにすぐに来院されます。多少の痛みがあっても、練習に参加できる程度であれば、彼らは我慢してプレーを続けます。徐々に痛みが強くなり、本来の自分のプレーができなくなると、ついに、時間をとって、スポーツ整形外科に来られます。その時点では、日常生活は普通にできます。
普通の生活では痛まない程度の損傷でも、激しい活動では痛みの原因となることもあります。この状態が続いた時も、選手は医療機関を訪れます。こんな時に、「ふだんの生活に影響ないんやから、スポーツ止めたらええやんか」という指示は無意味です。スポーツ活動をすることが彼らの目的ですから、いくら症状が取れるといっても、スポーツを止めるという方法は選ぶはずもありません。そこで、何とか、スポーツ活動をしながら、症状を和らげる方法を考えることになります。この点が、スポーツ医学のおもしろさでもあり、同時に、難しさでもあると思います。多くの場合、痛んだ箇所の周囲を鍛えるトレーニングを指導します。周囲を強化することで、痛んだ部位を保護しようという考え方です。(これは、痛んだ膝の対応で、以前、お話ししたことと同じ理屈ですね。)
残念ながら、それでも痛みが取れない場合、その後もスポーツ活動を続けたいならば、根本的な方法として手術をお勧めすることがあるのです。これがスポーツ選手に、かえって手術が増える理由です。
スポーツ選手でなくても、膝が痛くて受診される方で、薬や注射、リハビリの体操、サポーターなど、効果があると思われることをいくら続けても、立ち上がりや歩くときの痛みが取れない方がおられます。こういった方には、最終的な方法として、手術があることをお話しすることになります。ほとんどの方の反応は「手術はねぇー」というものです。日常生活で痛みながらも、活動できているうちはいいのですが、これができなくなってくると、さすがに困って、「どんな手術ですのん?」と情報を集め始められます。きっと、いろんな人からも聞かれているのでしょう。「人工関節いうてな、いわば傷んだ部品の交換のようなもんやな」と応えます。「痛いでっしゃろなぁー」「リハビリはどれくらいかかりますのん? 辛いらしいですな」「手術して、歩かれへんようになった人がいてはるて聞いてますねん」と否定的な言葉が続きます。「入院期間は?」「費用は?」「いつ頃から歩けますんでっか?」などという質問が出始めると、結構マジになってきていることが分かります。ご家族にも来ていただいて、相談です。
私は、これからやりたいことがある人だったら、勇気を出して手術を受けることを勧めています。スポーツ選手と同じです。手術が怖いからという理由で、結局、痛みのために家に閉じこもりがちになり、次第に動けなくなって、寝たきりになってしまった方を見てきたためでもあります。でも、手術を強制することはできません。自分の身体であり、自分の人生です。自分で決めるべきですし、どんな選択も可能です。私がこの仕事をしていて、一番感動するのが、こういった決意に立ち会ったときです。1年以上悩んで、車椅子で外来に来られて、最終的に手術に踏み切った方が、手術後、痛みが取れて元気になられると、それまでとまったく違う表情になられます。こういったお顔を見ると、また、次の日へ、エネルギーが湧いてきます。皆さんは、こんな時、どんな決断をされるでしょうね。一度、自分に置き換えて、考えてみてください。