読み物BOOKS
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1999.09.06
整形外科の外来には、年輩の方がたくさん来られます。お年寄りのサロンのようになっているような場合もあるほどです。「今日は、OOさん来てはれへんな」「ウン、こないだから、調子悪い言うてたわ。家で寝てんのんとちゃうか」「そうか、また、元気になったら、きはるやろな」などという会話が交わされています。これは笑い話としても、実際、多くの高齢者の方が、「あちこちが痛い」「調子が悪い」「手足がしびれる」と、整形外科の外来を受診されます。老化による整形外科の病気の代表的なものは、前回お話しした「変形性関節症」です。関節の表面にある軟骨が、長い間使われてきたために、次第にすり減って傷んできた状態と説明されています。実際に、レントゲン写真やその他の検査では、関節の幅が狭くなっています。これは、関節の軟骨が薄くなっている証でしょう。しかし、くどいようですが、こういった変化があれば、必ず痛むというものではないのです。老化に伴うからだの変化は確かにさまざまな臓器にでてきますが、対処の方法を知れば、うまくつきあっていけると、私は考えています。
医師は、診察に及んで、治したいという願望を強く持っています。治すということを文字通り、「まったく完全に元に戻すこと」と考えれば、医学の力でその目標がかなえられることは、むしろ少ないと言えます。それでも、医師は治すことに責任感を抱いて、診察に臨みます。そして、元に返すことのできない事態を前にして、立ちつくすのです。それが、時に、相手に対して優しさの欠如した言い方となってしまいます。「老化やから、しゃーないで」という表現も、うまく伝わらないと、聞いた人を落ち込ませてしまいます。確かに、老化は元に戻すことのできるものではありません。若返ることができないように、あきらめないと仕方がない状態ではあります。しかし、だから、どうしようもないので我慢しなければならないものでもありません。医師も伝え方を工夫しないといけませんし、ご本人は老化の実態を理解し、どのような対処の方法があるのか、学習してほしいと思います。
機械と同じように、人間の身体も使いすぎることによって傷んでくるというのは、分かりやすい説明です。しかし、これは、一面の真理でしかありません。もし、関節にかかる負担が決められていて、それを越えると必ず症状がでるとすれば、スポーツ選手たちは、年を取るとみんなよれよれの身体になるはずです。現実には、若いときに動いた選手たちは、むしろ動かなかった人と比べて、いつまでも元気なのは、みなさんも経験がおありだと思います。骨粗鬆症の研究では、適度にスポーツをしていた女性はしていなかった女性に比べてはるかに、骨粗鬆症にかかりにくいことが分かっています。一方では、マラソン選手のようにあまりに身体を酷使すると逆に骨密度は低下するとも言われています。体をうまく使うことが、いかに大切かが分かりますね。使い方が問題です。「使いすぎ」も、「使わなさすぎ」も、弊害があるのです。
車の性能についても同じような話があると聞きました。車を大事にして、休日しか走らせない人がいました。彼は、アクセルを踏むとき、強くは踏みません。じっくり、ゆっくりと踏みます。エンジンの回転数を上げると傷むことを心配しているのです。その人が、事情があって、その車を手放さないといけないことになりました。下取りに来たディーラーの人は、外見は5年たってもきれいで、走行距離もそれほどいっておらず、新車と同等のよい状態と評価をしました。しかし、乗って走らせてみて、その評価はがたがたに下がってしまいました。全然、車が走らないというのです。大事にしすぎたために、エンジンが回らなくなってしまっていたのでしょう。
一方、毎日、高速道路をとばして会社に通い、月に2,3度はゴルフにも走り、一ヶ月に150~200キロも走っている車は、外見は汚れているかもしれないけれども、よく走るといいます。車が喜んで走るようだとも聞きました。機械も、適当に使われないと本来の能力が引き出されないのですね。人間の身体もよく似ている気がします。うまく使えば、大事にして、床の間に飾っているよりも、長持ちするというわけです。
大事にしすぎることなく、体の持っている能力をうまく引き出し、丈夫に長く使う工夫が要ります。それが、体操ということになるのであろうと思います。「私は普段からこんなに動いているのに、いまさら体操なんて、別にせんでもええやろ」と、バカにする人がおられます。しかし、仕事やスポーツで同じ場所を繰り返し使うというのと、まんべんなく、体を動かすというのは、まったく違います。同じように、体は動いていても、その目的によって、健康にとって良い場合と、むしろ悪い場合があることを忘れてはならないでしょう。
先日、NHKで、アメリカの高齢者の対策として、お年寄りに対してのトレーニングジムのことが紹介されていました。確かに、病気や怪我をしてから対策を講じるよりも、そうならないようにする予防対策の方が、社会にとって効果的で、安上がりなのでしょう。私も、その放送を見ながら、日本の高齢者の方々にこういった機会を提供できないものかと、作戦を練っているところです。みなさんも関心があれば、是非参加してください。
老化からは逃げることができません。どんな偉い人にも、どんな金持ちにも平等にやってきます。そして、それは、自分の人生であり、自分の身体です。痛いのも自分なら、死んでいくのも自分です。どう対処すればよいのか、家族がしても仕方ありませんし、まして、他人が代わりにやってくれるわけではありません。自分自身で、自分の生き方をうまく工夫していく必要があるのでしょう。膝の周囲の体操だけではなく、体の機能の維持のために、毎日、少しでも、体を動かす習慣を忘れないようにしたいものですね。