読み物BOOKS
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2002.06.01
先月は済みませんでした。愛読者(?)の皆様には、大変、ご迷惑をおかけいたしました。心から、お詫び申し上げます。ただ、99年の4月から毎回続けてきました私のコーナーなのですが、35回を越して、書くネタも底をついて参りました。ここらで一休みをいただきたいと勝手ながらお願いいたしたいと思います。長い間、お世話になりました。ありがとうございました。
さて、一応の区切りということで、何か、特別のことを書ければよいのですが、そのように振りかぶると一向に筆が進みません。いつものように最近感じていることを書かせていただきます。
先日、組織の50周年ということで、記念誌を発行しました。一つの区切りで珍しく過去を振り返る機会となりました。私が医師になった頃、病院経営者、ことに民間病院では、経営のために、外来患者さんには回数多く通院していただき、また、なるべく入院を勧めて、いったん入院されたらできるだけ長く入院していただき、検査や薬も許される範囲でたくさんする方がよいというような時代でした。したがって、医師としての立場と経営者としての判断との間には多少の誤差のある時代ではなかったかと思います。つまり、医師としては、それほど入院している必要がなくても、入院を勧め、あまり必要ではないと思うようなビタミン剤でも処方するといった具合です。それが、常識の範囲を超えると「薬漬け、検査漬け」の医療という批判につながったのだと思います。
しかも、そうした診療の形態は、医療費を国が負担し、自己負担が少なくなることにより、強まってしまいました。国民は、自分の懐が痛まない限り、あまり神経質にこうした問題を考えなかった面があったのです。今でも、ついでに風邪薬を処方して欲しいというような依頼を受けることがあります。余分に湿布を出してくれと言われることもあります。それは、公金である保険財源からすれば無駄遣いとなるわけです。儲けを考える医療機関にとって、こうした患者さんはよいお客さんということにあります。両者の利害が一致していたのですね。
こうした時代には、ある意味では、要領よく立ち回る経営者が大きな利益を得ることになりました。医療についての高い理想を掲げて運営をしていこうとすれば、逆に、経営的には苦しい状況となっていたはずです。しかし、時代は大きく変わりました。主として財源がなくなってきたために、方針が変更され、無駄を排除しなければ、本当に必要な方に必要な医療が提供されないようになってきたのです。
私は、それはよいことではないかと感じています。医師としての立場と経営者としての考えの間に、溝がなくなってきたからです。もともと、技術者として考えれば、治療に際して、必要最小限の検査により正しい診断をつけ、必要最小限の薬により、患者さんを治癒の状態にできる方が、レベルの高い医師ということになります。多くの検査を実施して、しかも、たくさんの薬を使って、結局、治癒に至るには長い期間を要したとすれば、それは腕の悪い医師です。しかし、以前の方式では、こうしたやり方の方が経済的には潤っていたという矛盾があるのです。それでは、一生懸命自分の技能を高めようという気持ちに水を差すことになります。腕が上がれば上がるほど収入が減るのではたまったものではありません。手術でもそうです。きれいに短時間で手術を仕上げるよりも、へたくそが長い時間をかけて出血させ、しかも感染でも起こした方が、輸血や抗生物質で儲け、さらに長い入院で稼ぐという信じられない実態がありました。
これからは違います。腕のよい診療チームが短期間で治癒の状態に持っていく方が高く評価される時代が近づいています。その意味では、議論すべき多くの問題があるとはいっても大きな方向性について、私自身は歓迎しています。みんなで集めた税金や保険料の使い道を吟味する時代です。賢く立ち回る一部の人の得になるというのではなく、よいものを作り上げるよう努力し、成果を上げているところで上手に使われるような体制を期待しています。
利用する国民も、もっと賢くならないといけません。近所だからと、質の悪い医療機関を利用するのは損ですし、無駄を生みます。また、自分の都合で入院期間を延ばすようなわがままは許されません。もともと、一カ所の施設ですべての機能を持つことは不可能だし、効率が悪いのです。医療機関もそれぞれが自分の得意な分野をはっきりとさせなければなりません。そして、機能の異なる施設同士が密に連携をとれば、遙かに優れた結果が期待できます。つまり、急性期の治療が済めば、リハビリテーションに特化した回復期を担う施設に移るべきだし、その後、さらに療養が必要な状態であれば、維持期に適した人員と施設・設備を有した組織に移るのがよいでしょう。
世の中の色んな分野で古い仕組みのためにきしみが生じ、苦しんでいるように思います。政治も経済も、そして医療も変革が必要なときだと思います。厳しくしんどいけれども、知恵を出し合い、この国に、この地域に生まれてよかったと思えるような体制を作らねばなりません。それには、個々の人間の意識改革も求められているように感じています。
私自身に関していえば、自分自身の中にある殻を見つけ、それにとらわれない自由な発想を育て、それに伴う行動力を身につけねばと考えています。しばらく充電期間をいただきたいと思います。ありがとうございました。