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2001.10.01
リハビリテーションの概念が機能訓練だけではないことがお分かりいただけたでしょうか? 私はリハビリテーションを、「人間らしく生きることを考える哲学であり、同時に、人が人として、生きる価値を損なわないようにするすべての関わりとそれをつなぐシステム」ととらえています。その意味では、病気やケガという問題だけではありません。ただ、そのうちの一部を私たち医療者が担っているに過ぎないと考えています。
それにしても、病気やケガというのは、一大事です。その人がその人らしく生きることを阻害する事件です。それは何とか解決しなければなりません。しかし、残念なことに、こうした出来事が起こると、いつも、完全に元通りになるという保証はありません。むしろ、なかなか本当の意味で元と同じ状態とはならないと思います。それをかなえることは大変に難しい課題です。
こうしたリハビリテーションの考え方において、残念なことではありますが、日本は欧米とかなりの差があります。私は個々の技術者の技能においての相違はそれ程はないと思っています。しかし、その技術者の持つ技能をしっかりとつながないと、利用者の方にとって本当に喜んでいただけることはできません。そういったシステムという意味では、日本はまだまだです。私の感想ですが、15年以上の差をつけられていると感じています。これから、相当の努力を積み重ねていかないと、追いつくことができないくらいの差です。
傷ついた臓器の修理という点では、日本は優れた能力を持っています。しかし、傷んだ臓器が修復されても、すぐに行動や生活が同じ状態に回復するのではありません。それには時間がかかります。また、そのための特殊な工夫が必要です。たとえば、狭心症の発作が起きて、その痛みが治まったとしても、すぐに、これまでと同じように仕事をしたり、ゴルフをするというわけにはいかないでしょう。骨折でもそうです。骨がくっついたからといって、骨折する前と同じように階段を走って駆け上がることができるようになるには、時間もかかりますし、ご自身の努力が要ります。
こうした肉体的な回復について、これまでお話ししてきたリハビリテーションの技術をできるだけ早い時期から適用することでかなりの部分解決することができるでしょう。しかし、忘れがちなことですが、精神面での回復についての配慮が必要です。こうした病気やケガを経験すると、いくら医者から治ったと言われても元通りの自分にはなれないものです。不安が残るのです。また、人にもよりますが、いろんな判断に多少弱気の虫が入り込む余地が生まれるものです。
病気やケガが、治りやすい人や環境があると思いませんか? 同じ病気に同じ治療を施しても治療成績は一定というわけではありません。人による違いがあるのです。一つは、その人の性格です。前向きに人生をとらえくよくよしないタイプの人は治りやすいと言われています。また、周囲がそのように持っていけば、本人の落ち込みも少なくなります。人に備わった自然治癒力は積極的な、前向きの考え方によってますます強化されるということだと思われます。ケガや病気でしょぼくれてしまっては、簡単に言えば、ますます病気につけ込まれて、治りにくくなってしまう可能性(危険性)があるということです。
欧米のリハビリテーションの現場で一番日本と違うと感じたのは、利用者の方の精神的な強さを育む環境について相当の配慮があるという点です。ただ、頑張りなさいという叱咤激励のかけ声だけではなく、落ち込みそうになる人の気持ちを心から支える雰囲気がそこには伺えるのです。何が違うのか、どうすればこうした根源からの元気づけができるのか、私にとっては大きなテーマです。リハビリテーションは人間的な作業です。決して科学的な方程式だけでベストの方法が見つかるものではありませんし、最大の効果が上げられるものでもありません。それ故に、当事者自身を含めて、関係者全員が目的意識を確認し、それぞれの役割をきちんと果たすことが出発点であると改めて感じています。