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2001.07.01
前回お話ししましたように、残念なことに、日本では、リハビリテーションの考え方の普及が遅れ、そのために、実際の診療面でも、すべての患者さんに、適切なリハビリテーションが実施されてはこなかったという歴史があります。その原因を考えてみたいと思います。一つは、リハビリテーションの専門家の絶対数が不足していたことです。リハスタッフとは、どのような職種をいうのでしょうか? まず、リハビリテーション科の医師や看護婦があげられます。彼らに加えて、次のような専門職種が必要となります。みなさんは、それぞれの専門家が何を担当しているか、ご存じですか? 機会があれば詳しくお話ししますが、ここでは紹介するにとどめます。それは、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)、義肢装具士、介護福祉士、医療相談員(MSW)、さらに、臨床心理士などです。外国では、リクリエーションによるリハを行う専門職種まであります。さらに、理学療法士の中でも呼吸機能を中心に専門分化して、呼吸療法士という資格まで誕生しています。日本では、現場の要請に対して、これらのスタッフの育成が追いつかなかったのです。
二つ目の理由は、施設設備の問題です。リハビリテーションを行うためのスペースを十分に取るような考え方を持った病院はあまりありませんでした。
三つ目の理由は、リハビリテーションに対する診療報酬の低さです。そもそも、日本では、薬や検査など、ものを販売したときの価格に比べて、人が人にするサービスに関しては、安く設定されています。医師の診察と同様に、リハビリテーションに関わる技術者によるケアには、人件費をまかなうことがやっとの報酬しか保証されていません。これが、リハビリテーションに取り組む病院が少なかった理由でもあります。また、儲けのことばかり考えて、薬漬けや検査漬けと言われる診療を行う医師を生む背景ともなりました。
四つ目の理由は医師の問題です。急性期の治療を行う医療機関では、勤務する医師たちは治療することに夢中ですから、最新鋭の検査や治療の機械を購入し、使うことには熱心です。しかし、リハビリテーションにはあまり関心を示しません。しかも、臓器の修理ともいうべき急性期の治療が終わると、患者さんの状態がどうあれ、興味を失ってしまう傾向があります。たとえ歩けないとしても、「良くなったのだから退院しなさい」という指示がでることになってしまいます。こうした急性期の治療ばかりに焦点が当てられることになったのは、いうまでもなく教育制度の問題であり、日本の大学医学部のあり方に大きな問題があると私は考えています。
最後に、五つ目の理由があります。それは、リハビリテーションを受ける側である患者(国民)の課題です。今まで日本では、急性期の治療を行う施設で、ある程度良くなったのにも関わらず、引き続いての入院を行っていた経緯があります。両者の利害が一致していたからでもあります。諸外国では、急性期の治療は、一週間程度です。そこでは、患者さんに多くの医師や看護婦がついて、大きな手術など、命のやりとりの治療を行います。少しでも機能を保持するために、PTなどがベッドサイドへ出かけて、そこでの訓練を行います。しかし、患者さんの様態は、訓練室まで移して、行えるような状況ではありません。こうした施設では、リハビリテーションの部屋は必要ないことになります。ある程度、快復してくると、日常生活に戻るための訓練や工夫が始まります。それは、本来、急性期医療の施設ではできません。スタッフの中身が違いますし、施設や設備も異なるからです。そこでは、医師の数よりも、看護・介護、そして、リハビリテーションのスタッフがたくさん配備されていなければなりません。そして、浴室やトイレなどは、回復途上の方にふさわしいものである必要があります。ちなみに、急性期の施設では、浴室など不要です。生きるか死ぬかの勝負をしているのです。のんびりお風呂に入っておれるわけがありません。同じように、食堂など絶対に要りません。病室から外に出ることのできない方だからこそ、多くの治療スタッフがいる急性期の施設に入院しているのです。
さて、回復期の時期を過ごしている内に、先の見通しが見えてきます。さらに訓練などによって、生活が完全に自立できるほどに回復していくことが見込める方がおられます。一方では、残念なことに、いくらかの介助な必要な程度の回復に終わることが予測される方もおられます。それぞれの機能上のゴールに向けて、準備が始まります。中間施設といって、自宅に帰ることをゴールとして、集中的に、具体的な方法を討議し行動に移す施設があります。日本では老人保健施設がそれに該当します。さらに、かなりの介助が必要で、自宅での生活が困難とされた方に対しては、適切な介護が受けることのできる生活の場を設定する必要があります。それは、特別養護老人ホームや介護療養施設ということになるでしょう。
一人の方が、病気をされて、回復され、最終的に社会復帰をしていかれるまでには、こうしたいくつかの段階があるのです。そして、それぞれの段階において、求められる施設・設備や、必要な専門職種の種類と数は、当然、違ってきます。しかし、これまでこうした機能分担は、日本ではありませんでした。おなかの手術や骨折のギプスを巻かれた人が同じ病室にいて、しかも、そこには2年前から入院しており、自宅には帰ることのできなくなった寝たきりの高齢者もおられたりします。一方は、元気でむずむずしており、ベッドにじっとはしていません。病室での食事は苦痛です。隣のおばあさんのポータブルトイレからの悪臭が耐えられないのです。それでも患者さんは、入院生活を長くしていることを好みます。手術をしてもらった施設に長く入院しておりたがる傾向があります。利用者の方も、こうした意識を変えて、きちんとした機能分担の中で、それぞれの時期にふさわしい施設に移っていくことも、日本でリハビリテーションが適切に実施されるようになる条件になると思います。
いくつもの課題をお話ししてきました。それぞれの課題は、容易には解決できるものではありません。しかし、病気やケガといった望まない事態に際して、ヘルスケアの役割は、その影響を最小限とするです。それには、単に治療が正しく行われただけでは不十分です。治療の後、社会や家庭への完全な復帰をめざして行われるリハビリテーションの充実が不可欠なことをご理解いただきたいと思います。またまた、理屈っぽい話となってしまいました。次回は、さらに、リハビリテーションと治療との違いについて、考えてみたいと思います。