読み物BOOKS
読み物BOOKS
2000.11.01
数回にわたって、腰の痛みの原因について、内臓からのもの、骨が原因のもの、そして、神経が圧迫されて炎症を起こす椎間板ヘルニアを説明してきました。こんな風に病気が並ぶと、腰の痛みでも、心配になられるかもしれません。私が診療をしていても、「近所の人で『腰が痛い』言うてた人がいましてん。その人が、しばらくして、死なはったですわ。ガンやったそうですわ。何や、こわなって来ましてん」とおっしゃる方が、結構おられます。
けれども、ご安心ください。実は、腰の痛みの原因として一番多いのは、こうした骨や神経からのものではありません。筋肉によるものです。うまく対処すれば、必ず治ります。生活に困るようなことにはなりません。でも、筋肉が原因で大したことはないとなめてかかると、繰り返すようになり、やっかいですから、気をつけないといけません。よく読んで、役立ててください。
人間に起こる腰の痛みは、人が二本の足で立つようになったときから始まっているといわれています。四つ足で動く動物たちには、腰の痛みはないというのです。ただし、誰も、直接、聞いたことがあるわけではありません。動作からの推測です。二本の足で起立するというのは、歴史的には大変な出来事です。そのお陰で手が自由に使えるようになったからです。人と動物との大きな違いの一つは、細かい作業ができるように手の機能が特別に発達したことです。ただし、体重を四本で受けていたときと違って、二本で立つというのは、簡単ではありません。立っているという姿勢を維持するには、骨だけではなく、筋肉がしっかりしないといけないのです。同時に、上手に筋肉を使うための神経の働きも重要です。立っていることを保つために、背骨の両脇の筋肉は大きな仕事をしていて、「脊柱起立筋」とよばれています。特に、腰の部分、つまり、骨盤のすぐ上の筋肉には、負担が集中します。長い時間、立っていると疲れてくるでしょう。腰のところに手をやりませんか? それは、バランスを取って立ち続けるために、ずっと腰の筋肉が働いているからなんですね。
姿勢を保ち、腰を支えているのは、骨だけではありません。テントに例えると、腰の骨(脊椎)は、真ん中の支柱です。筋肉はその支柱からバランスよく引っ張られるロープに当たるのです。骨と、筋肉と、さらにちょうどよい緊張を調節する神経の働きがかみ合ってはじめて、人間はしっかりと大地を踏みしめてと立つことができるわけです。幼児が捕まり立ちから、ようやく二本足で一人立ちをする経過を思い出してください。ハイハイをしていた子が何かに捕まって立ち上がることを覚えます。そして、その後、ふらふらとしながらも、よちよち歩きを始めるわけです。親としては、本当に感動しますね。こうした変化は、実は、猿からヒトへの進化の歴史でもあるのでしょう。
逆に、長い間寝ていたり、年を取って足腰が弱ってくると、こうした動作が、また、大変な作業になってきます。元気なときは、当たり前のように行ってきた「立ち上がり」や「一人立ち」が決して、簡単な動作ではないことが、そうなってはじめて分かります。骨に問題があっても、筋肉が弱っても、そして、調整役の神経がうまく働かなくなっても、立っていることはできなくなってしまうのです。実は、座っていても、背もたれに身体を預けない限り、腰の筋肉は姿勢を保つために働き続けています。
したがって、人間の生活では、寝ている以外の時間は、腰の筋肉はずっと使い続けているのですね。だから、疲れます。体調がいいと、こうした疲労をうまく解消するようにできています。若いときは、どんなに激しい労働をしたり、スポーツで体を使っても、一晩ぐっすりと眠れば、すっかり元気になりますね。しかし、体調が悪かったり、年を取ってくると、なかなか疲れがとれません。こうした疲労の蓄積が、「痛みのもと」となります。
つまり、腰の痛みの最大の原因は、骨でもなく、神経でもなくて、筋肉なのです。筋肉に疲労が溜まると、老廃物が生まれ、筋肉は固くなります。その結果、筋肉の中での血液の流れが悪くなります。肩こりと同じです。循環障害に陥った筋肉には、ますます老廃物が溜まり、そのせいで痛みが起こり、勝手な収縮が始まります。それで、余計に循環状態が悪くなるという悪循環を起こすのです。
もともと、筋肉は、伸びたり縮んだりを繰り返すような動きには強いといわれています。腕を曲げ伸ばしするような運動です。これなら、1キロの重しを持っても一分間位できそうですね。それに引き替えて、ずっと縮んでいるようなタイプの活動はあまり長続きしません。曲げ伸ばしでは血液の循環が促されるのに、ずっと縮んだままというのは、血液がうまく流れなくなるからでしょう。1キロのおもりを持って、1分間、腕を伸ばしたままじっとするような運動を考えてみてください。きつそうですね。号令をかけて、そうした運動をやってもらい、「はい、いいですよ」と声をかけたとき、ほとんどの人が腕を振ったり、反対の手で叩いたり、揉んだりします。これは、本能的に、流れが悪くなった血液を流そうとしている動作だと解釈できます。
疲れのたまった腰の筋肉も、血の流れを作ってやるのが、疲労回復の一番よい方法となります。どうすれば、血の巡りがよくなるか、ほとんどの人が、すでに知識を持っておられます。入浴したり、温泉に浸かって疲れをとろうとしますね。人にマッサージしてもらうのも気持ちのよいことです。こうした方法は効果的ですが、長続きしません。そこで、私が一番大切だと思っているのは「体操」です。人にしてもらう方法は確かに気持ちがよいのですが、一時的な効果しかないのですね。それに引き替えて、自分で努力すれば、効果は比較的長持ちします。人任せではなく、自分で努力しないといけません。
どのような体操が効果的でしょうか? 要は、疲れた筋肉をほぐすことです。固まって縮んでしまった筋肉をもとの長さに伸ばすような体操を中心に行います。
上向きに寝て、片方ずつ、あるいは両方いっぺんに、膝を抱え込むような運動は、腰を曲げることになります。両膝を立てて、右に左にと順番に、横の方にゆっくりと倒すような運動は、腰を左右に捻る動きです。こういう風に、寝た状態で、腰をゆったりと曲げたり、大きくゆっくり捻ったりすることにより、腰の筋肉が伸ばされ、血の流れがよくなるわけです。決して、立って行わないようにしましょう。それでは、痛みを引き起こしてしまう可能性があります。また、スピードの早い運動や力のはいるような体操は、ほぐすことになりませんので注意してください。
従来からの柔軟体操のように、後ろから人が押すような体操もお勧めできません。加減ができないからです。相手が痛がっているのに、無理に曲げるような運動はかえって痛みを起こす危険性もあります。筋肉を無理に伸ばすと逆に縮もうという反射が起こります。さらに、無理すると、筋肉自体が傷んでしまうこともあります。したがって、静かに伸ばすストレッチングがよいでしょう。
今回は腰の痛みの原因で、一番多いのは、筋肉の疲労からだということ、そして、その対処の方法としては、ほぐすような体操が血の流れを促すので、大切であること、をお話ししました。次回は、さらに、予防について、お話ししましょう。