読み物BOOKS

2000.10.01

プチトマト 2000年10月号

 今回は「椎間板ヘルニア」という病気の話です。「ヘルニア」というのは、本来あるべき場所から、袋をかぶってはみ出している状態のことを言います。したがって、「脱腸」といわれてまたの付け根のところに腸管がはみ出しふくれる病気があります。これは、医学的には「そけいヘルニア」とよばれています。腹膜という袋が破れて膨れているのではなく、おなかの壁が先天的に弱かったり、ほころんだために腹膜をかぶって外に貼りだした状態となっているからです。その他にも、「食道ヘルニア」「脳ヘルニア」などがあります。いずれも、正常の位置関係がくずれて、膜をかぶって組織がはみ出した状態をいいます。
 ただはみ出しているだけで、特に症状のないことも多いのですが、時には、こうした異常が、痛みやその他の症状をひき起こす原因となります。椎間板ヘルニアでも、ただはみ出ているだけでは問題はないのですが、すぐ近くにある神経に影響を及ぼすと、やっかいな症状を起こすことになります。
 椎間板ヘルニアという病気についてお話しする前に、正常の身体の構造をまずご説明しましょう。前回、背骨は二本足で行動する人体の軸となる器官で、一つひとつの脊椎が積み重なってできているとお話ししました。椎間板はその積み重なった脊椎と隣の脊椎との間にあって、クッションのような働きをしています。椎間板をさらに詳しく観察すると、タイヤと同じように、中央の髄核というショックを和らげる組織があり、その周囲を線維輪というタイヤのゴムに当たる部分が取り囲むような形をしています。こうした構造の身体を長い間使っていると形の上で、さまざまな変化を起こします。それは、自然な老化です。病的なものではありません。皮膚の老化といえば「しわ」です。髪の毛は年取ると白いのが目立ってきます。でも、あまりにありふれているために、その変化であわてて病院に行く人はいませんね。骨や椎間板も同じことです。自然な老化による変化もあるのです。レントゲンやMRIは何か異変がない限りとるものではありませんから、そこで見つけられた形の変化を、医師も気にすることが多いね。でも、大げさに取り立てて悩む必要のないものが多いことも頭に入れておくべきだと思います。よく、背骨の骨と骨の間が狭くなっているというレントゲンの説明をされると思いますが、これは、この椎間板が変化してきたためです。しかし、狭くなったからといって、いつも痛いわけではありません。これも老化現象の一つですから、多かれ少なかれ、誰にでも起こっていることだと考えて良いと思います。
 こうした自然の老化でも起こりますが、それとは別に、ケガや長い間の変な姿勢での作業などにより、椎間板の外側になる線維輪の一部が傷んでくることがあります。さらに圧力がかかると、中央にある髄核が線維輪の傷ついた部分からはみ出てきます。その状態が「椎間板ヘルニア」です。つまり、「椎間板ヘルニア」は、椎間板の中身の「髄核」といわれるクッションが、線維輪の弱いところから、後方へ突き出した状態ということです。この変化は、決して珍しいものではありません。40歳代の成人男子の場合、3人に一人はこうした変化があるという報告もあります。
 不思議なのは、飛び出した状態となっても、痛みを感じる場合と、飛び出しているのに痛くない場合があるということです。神経を抑えるだけでは、痛みは起こらないのです。圧迫された場所で神経に「炎症」が起こると、初めて、神経に沿った痛みが発生します。多くの場合、坐骨神経に沿って痛みが走り、「坐骨神経痛」という言い方をされることもあります。つまり、お尻や太股の裏側、さらには、すねから足の指にまでひびく痛みが生じます。
 神経が抑えられただけでは痛くないということに注意しなければなりません。圧迫に加えて、「炎症」が起きたときに嫌な痛みが起こるのです。ですから、治療の第一歩は、圧迫を取り除くことより先に、「炎症」を抑えることになります。MRIなどの検査をして、「神経を抑えているから手術が必要です」という説明は、正確ではありません。あくまで、手術は炎症を取り除くさまざまな手段がうまくいかず、生活に影響のある痛みが取れないときに限って行うべきだと考えています。
 炎症を取る手段として、一つは「安静」や「固定」です。そして、薬を飲むことになります。薬は「鎮痛消炎剤」を使います。普通には「痛み止め」と言われていますが、この言葉通り、炎症を抑える作用を持っていますから、決してその場しのぎというだけではないので、上手に薬を使うことも大切です。あまりに薬の副作用を恐れすぎて、痛みを我慢すると、そのことによる影響もあります。痛みそのもののために消耗しますし、痛いために動かない時間が長くなると、ますます弱ってしまいます。それは、薬の副作用よりも困った事態とも言えます。賢い対応が必要ですね。不安があれば、医師や薬剤師に率直に相談されるのがよいでしょう。炎症を抑える決め手は、炎症が起きている部分へ直接炎症を抑える薬を注入することです。腰への注射です。聞くだけでも痛そうですが、実は、皮膚を刺すときの痛みは腕の注射と同じですから、違いはありません。後ろですから、怖さはあります。でも、丸く背中をかがむような姿勢を取れれば、簡単に済むものです。
 こうした方法でも炎症が治まらず、痛みが取れないとき、手術を考えると言いました。最近では、手術でも顕微鏡を使います。大きく拡大して、大事な組織に傷つけないように細心の注意を払って行います。昔いわれたように、腰の手術して歩けなくなったなどという事態はまず見ることはありません。
 いろんな方法で痛みが取れれば、次のステップが待っています。トレーニングです。痛みで使わないために弱ってしまった腰の周囲の筋肉を丈夫にしなければなりません。強くすることで、同じような活動をして腰に負担をかけても、神経の炎症が起こらないようにするのです。トレーニングの原則に従って、徐々に、時間をかけて強化すれば、再発しないようになります。
 今回は、「椎間板ヘルニア」についてお話ししました。ちょっと専門的な内容だったかもしれませんが、お分かりいただけたでしょうか?ご質問などありましたら、編集部の方へよろしくお願いいたします。



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