読み物BOOKS

2001.06.01

プチトマト 2001年6月号

 

 リハビリテーションというのは、新しい考え方です。一昔前は、医学技術が今のように発達しておらず、大きなケガや病気になると、その結末ははっきりとしていました。つまり、「生きるか死ぬか」でした。治療は、生命を維持することができるか、できないかという、単純なものだったのです。そして、その勝負は意外と短い期間でつきました。長期になることも少なかったでしょう。重度の障害を残した形で治療を終えるというのは、珍しいことだったのです。仮に、障害を残したとしてもその状態で、社会で生きていくことは事実上不可能だったと思われます。こうした人を受け入れる余裕が社会にありませんでしたし、社会的な基盤の整備ができていなかったからです。
 しかし、科学技術の進歩と二度の大きな戦争によって、こうした事情はずいぶん変化したと言われています。ことに、欧米において、戦争による多くの負傷者を目の当たりにして、何とかしなければならないという機運が生まれ、それまで、ほそぼそと行われていたリハビリテーションが脚光を浴びるようになってきたのです。考え方も徐々に洗練されたものと変化していきます。
 当初は、リハビリテーションの目的は、障害を少しでも軽くして、日常生活ができるだけ自分でできるように指導する「機能訓練」が主体でした。リハビリといえば、訓練という認識が生まれたのは、このためです。その後、こうした「機能訓練」中心の考え方では、十分ではないという反省が生まれました。日常生活を行っていくことを含めて、「障害を持つ方が最大限の能力を発揮して、自分らしい生活を過ごされること」を本来の目的とするべきではないかと言われるようになったのです。障害を持った人の人生を真っ向から考え、その人権を擁護し、健常者と同じように、役割を担って社会での生活することが当たり前となる仕組みへと進んできました。
 残念なことに、日本では、こうした取り組みはずいぶん遅れた状況にあります。「機能訓練」というリハビリだけでも不十分な状況です。悲しいことに、「電気」「牽引」といった「物理療法」をリハビリと呼ぶことが一般的ですらあります。リハビリテーション科という診療科目を掲げている病院や診療所は、多く見かけますが、そこで専門的なリハビリテーションが行われていることはきわめて稀です。専門的なリハビリテーションでは、医師、看護婦以外に、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といった技術系の専門家の他、介護や福祉の相談に応じるメディカルソーシャルワーカー(MSW)など、多くの職種が関わる必要があります。そして、施設や設備も要ります。たとえ、こうした専門職種が揃い、立派な訓練室や設備が整ったとしても優れたリハビリテーションが実施できるとは限りません。そこでのリハビリテーションの考え方がしっかりとしていないと、単なる訓練に終わってしまう可能性(危険性)があります。これからの日本では、リハビリテーションが何を目的としたものかという考え方を浸透させることが何より課題だと思います。そうすれば少しずつ、欧米との相違が縮まってくると期待されます。
 リハビリテーションの考え方を十分に理解することが求められるのは、まずは、医療スタッフ、ことに、医師達でしょう。医療スタッフに認識が薄いことが、悲しい現実ですが、一番問題ではないかと考えられます。
 たとえば、医学において、病気にならないようにする「予防」、病気が何であるかを考える「診断」、それに対してどのように対処するかという「治療」、に次いで、第4の医学として「リハビリテーション」が位置づけられたことにも、原因があります。こうした定義に従うと、リハビリテーションは治療が済んでから行われる後始末のような印象を持たせることになってしまったのです。今でも、「後は、リハビリぐらいだね」などという発言をする医師は後を絶ちません。「リハビリでもしていなさい」という指示まで聞きます。リハビリテーションが相手をする「障害」というものは、病気の後で出てくるものではありません。むしろ、病気と障害は同時進行で生じてくるものです。病気が起こった時点から、障害に対してのアプローチが必要なのです。繰り返しますが、残念なことに、日本では、こうした治療早期からのリハビリテーションの介入はなかなか行われていません。
 リハ医学の権威である上田先生はリハビリテーションを「障害を受けたものを彼がなし得る最大の身体的、精神的、社会的、経済的な能力を有するまでに回復させること」と定義されています。どうすれば、こうした本来のリハビリテーションが、障害を持った方全員に受けていただけるような体制が整うでしょうか? 医療スタッフ、ことに、医師達に問題があると述べました。彼らを変えていくのは誰でしょうか? 一つは教育システムです。しかし、もっと有効なのは、現場での利用者である患者さんはご家族からの突き上げではないかと思うのです。ですから、皆さんにもリハビリテーションについて、しっかりと学んでいただきたいと思います。時には、お互いに、限界を知ることも必要です。リハビリが叶えられる成果を見つめ、最大限の効果が上げられるように、声を出していただきたいと思います。大切なリハビリテーションの概念を、みんなが理解し、現実の医療体系の中に、自然に、組み入れられるように、医療スタッフと国民の意識改革と共同作業が必要ではないかと考えています。
 今回は、理論的な背景をお話しするために、多少、理屈っぽくなってしまいました。次回は、日本の医療制度の中で、どのようにリハビリが位置づけられているか、もう少し、制度の面から考察してみたいと考えています。



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