読み物BOOKS

2000.05.01

プチトマト 2000年5月号

 この4月から介護保険が始まりました。制度実施の期日は定められているというのに、実際の利用料金が発表されるのはぎりぎりになってからでした。その上、政治家の一言で実施直前になって保険料徴収のやり方が変更されたりもしました。そのため、利用者にとっても、また、サービス提供者にとっても、十分な準備ができず、現場が多少混乱しているようです。この新しいシステムには、これまでのヘルスケアにはない観点がいくつも盛り込まれています。どこが違うのかをお話しする前に、この制度ができた背景を整理してみようと思います。
戦後、日本人の平均寿命は、急速に、長くなりました。ヨーロッパやアメリカの国々のデータに追いつき、ついには世界一長寿の国と言われるまでになりました。それは経済成長により「経済大国」と評価されるように復興したこととともに、日本国民にとって誇らしいことだったと思います。それは、保健予防活動や公衆衛生を進めてきた厚生省を主体とした行政にとっても、また、中心的役割を果たしてきた医師会にとっても、胸を張ることのできる成果でした。
しかし、この長寿の陰に隠れるように二つの現象が同時に進行していました。一つは「少子化」です。産まれる子供の数が研究者の予想を越えて少なくなったのです。結果的に、人口に占める高齢者(通常、65歳以上とされています)の割合はどんどん高くなることになりました。少子化の原因として、そもそも結婚しない女性が増えてきたことや、結婚する年代も次第に高くなってきたことが関係しているといわれています。また子供を作らない夫婦の増加も指摘されています。これによって、将来、増加する高齢者を支えるはずの生産年齢人口(15歳から64歳とされています)が、減ることになり、ますます、高齢者の問題は深刻なものとなってきたのです。
もう一つの現象というのは、急増してきた高齢者の方々の状態に関する問題です。彼ら中で「寝たきり」の人や、「ぼけ症状」のある人が多くなってきたのです。それは、これまで表にはあまり出てこない問題でした。絶対数が少ないせいでもありますし、仮にこうした高齢者を抱えても、多くの場合、専業主婦である「嫁」が、多大の犠牲を払って、自宅で彼らの面倒をみてきたからでもあります。
しかし、高齢化により数が急速に増え、一方、介護に当たる女性は少なくなると、何とかしなければならないようになってきました。そこで、彼らを引き受ける役割を果たしたのが病院の病床です。そもそも日本の病床数は世界の国々と比較したとき、かなり多くなっています。国によって、入院を必要とする人の数がそれほど変わるとは考えにくいですから、その多い病床は、他の国とは違う用途をされて初めて埋められることになります。この余剰の病床が、介護を必要とする高齢者のために使われました。それは、その当時の病院経営にとっても都合のよい使い方であったともいえます。そして、長い期間、入院生活を送ることになりました。それは、ご家族にとってもイメージの悪い「老人ホーム」に連れていくよりも世間体もよい話でした。こうして、いわゆる「社会的入院」が生まれたのです。これらの費用は医療保険から支払われていました。しかし、医療保険財政も苦しくなってきました。医療保険で介護にかかる費用を賄うことはできなくなってきたのです。しかも、介護を必要とする高齢者の数はますます増えることが予測されます。それに引き替え、世話する世代は少なくなり、保険料を支払う階層も減ってきます。同じ体制のままでは21世紀を安心して迎えることはできない状況となってきたのです。
そこで考え出されたのが、今回始まった「介護保険」です。この制度はいくつもの見方をすることができます。今まで苦労してきた介護者の負担を公正にみんなで背負う制度ですし、医療保険と介護保険に分けて、費用負担のあり方をはっきりと区別した制度でもあります。それは、病院の病床を本来の目的で使う制度ということもできるでしょう。次回は、この制度の目的について、もう少しお話ししたいと思います。
なお、この制度について、関心のある方、また、利用上のご質問などございましたら、何なりと私どもの相談員の方へお申し付けください。分かる範囲ということにはなるかと思いますが、少しでもお役に立てればと思います。よろしくお願いいたします。



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