読み物BOOKS

2000.08.01

プチトマト 2000年8月号

 

 腰に痛みを感じるといっても、必ずしも、整形外科の病気ではないということをお話ししました。たとえば、腎臓に石があってそれが動くときや、狭い管に引っかかると、腰に強い痛みを起こします。石はあっても、じっとしていれば、症状が出ません。急に痛むのは、突然、石ができるためではないのです。その固まりが動いたり、引っかかったりすることによって、ケガの痛みが起こったり、炎症による症状が出たりして苦しむことになるのです。ですから、その時は血尿が出ることになります。

 痛みの起こり方は、「胆石」でも同じことです。胆嚢に石ができても、すぐに症状が出るわけではありません。腰のレントゲンを撮って、偶然、見つかることもよくあります。ですから、人間ドックなどで、石が見つかっても、あわてて手術する必要はあまりないと思います。それが原因で、しょっちゅう苦しむようなら、二度と苦しむことのないように、手術を考えようという話です。最近は、昔のように大きくおなかを開くのではなくて、腹腔鏡といって、カメラでおなかの中を観察しながら、特殊な道具を使って、小さな傷で手術をする方法が普及してきました。そのおかげで、傷跡も目立たなくなるばかりではなく、入院期間も短くなりました。手術が済んで、その日の夜にはトイレに歩いて行くこともできるようになったのです。技術の進歩は大したものですが、だからといって、取る必要のない、痛みを起こすことがあまりない石を予防的に摘出するのは行き過ぎのような気がします。どうしても、石があるというだけで不安であれば、取ってもらうのもよいでしょうが、石があっても痛みを起こさず、一生暮らしている人がたくさんいるということも知っておかねばなりません。そんな悩みをお持ちの方は、担当の先生とよく話し合われることをお勧めします。

 石以外にも腰や背中の痛みを起こす内臓の病気はあります。膵臓の病気です。膵臓に炎症を起こして膵炎になると、胃の辺りが痛む(膵臓はちょうど胃の裏側にあります)と同時に、左の腰から背中にかけての痛みを引き起こします。この痛みは上体を少し前屈みにすると和らぎます。アルコールをよく飲む人で、時々おなかが痛くなり、その痛みが背中の方にもひびくようなときは、この病気を考えないといけません。

 女性の場合、子宮や卵巣が原因での腰の痛みもあります。生理の時に下腹が痛いというだけではなくて、腰が重いような症状を自覚される方がおられるかもしれません。骨盤の中の臓器である子宮で、血液の流れが悪くなり、血がうっ滞するようなとき、こうした症状が出ます。子宮が後ろに倒れ気味となる「子宮後屈」という状態の時も同じです。結局は血の流れの問題で、重い、だるい、痛い、何かのっている感じ、張りの取れない不快感などの症状が出ます。

 こうした内臓の不調による腰や背中の痛みは、どれぞれ独特の症状を伴います。そこが、医師にとって、何が原因による症状かを判断する根拠となるので、患者さんからの情報というものはきわめて重要なものです。前回も述べましたが、いつから、どこが、どんな風に痛んで、それは、どうすれば楽になり、どうすればかえって辛くなるのか、受診されるときにはこうした情報を自分なりに整理され、医師に伝えていただくと大変助かります。短い診察時間の中で、こうした情報を与えることは、簡単ではないでしょう。しかし、聞こうとしない医師は、私は余り信用できないと考えています。医師の立場からすると、なかなか話してくれない患者さんへの対応は困ります。情報が少なすぎて、正しい結論を導き出すことが難しくなるのです。診療は、医師の能力が優れていればよい結果が出るというものではなくて、医師と患者さんやご家族が信頼し、協力しあって初めて、早く適切な対応ができるようになり、よい結果に結びつくのだと思います。良質のケアを行うには、両者の共同作業が不可欠なのですね。

 こうした共同作業は、結局、人間の活動すべてに言えるのではないかと思います。会社の経営、親子、夫婦など家族での活動、教育、リハビリ、これらは、誰かが一方的に相手に対して指示し、命令するからうまくいくというものではなくなってきました。戦争の時代のように、価値観というものが統一された教育のために一定であれば、指揮官の命令によって動く方がうまくいったかもしれません。しかし、今は時代が変わりました。それぞれの人がそれぞれの考えを持ち、生きています。こうした環境においては、お互いが相手のことを理解して、共通の目標に向かって手を取り合って進んだときに一番効率よく、物事が進むように思うのです。どうすれば、こうした関係を築いていけるでしょうか? まずは、両者が理解し合うことが絶対条件です。昔から日本人は「あうんの呼吸」などといって詳しい説明をしないで分かり合う関係が理想のように教えられてきました。しかし、そうした関係というのは、本当に稀なものだと思います。相手に自分の考えを伝える努力をしないで、自分のことを分かってもらえるというのは、虫が良すぎる感じです。むしろ、一生懸命伝えようとしても、その何割しか伝わらないというのが実状ではないでしょうか? 自分の考えを言葉などで表現することが苦手な私たちですが、共同作業を進めていく上では、必ず必要な技能になると思います。確かに、患者さんが、べらべら話すと機嫌の悪くなる医師がいることも事実ですが、どうか、ご自身の言葉で、ご自分の症状を伝え、何に困っているか、医師に対してどうしてほしいと願っているのか、また、絶対に嫌なことは何なのか、きちんと伝えてください。そうすれば、正しい診断に、早くたどり着くことができます。その上で、いくつかの治療方法の中から医師と相談しながら、自分の希望する治療を選択していくのです。こうした共同作業のような診療が、21世紀のヘルスケアのあり方ではないかと考えています。お互いが宿題を持っています。お互いの努力で、課題を乗り越えていきたいと願っています。

 腰の痛みの話が、随分、脱線してしまいました。次回は、整形外科が担当する腰の痛みについて、お話を進めましょう。



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