読み物BOOKS

2000.07.01

プチトマト 2000年7月号

 整形外科で扱うことの多い身体の箇所を順に並べると、一番が腰、ついで、膝、そして、足首、手指、肩、肘、足、となるように思います。こうしたデータは各施設によって違います。高齢者を見ることの多い診療所もあります。リウマチを専門とする病院もあります。スポーツ医学を看板としている病院もあります。研究が主体の大学病院もあります。それぞれの施設は、同じ整形外科といっても異なる特長を持っているのです。ですから、来院される患者さんもそれぞれ違ってきます。先に並べた順番はあくまで、私たちの施設での話です。このシリーズでは最初に「膝」のお話をしました。それに関連して、関節炎や老化について、考えてみました。子供たちの骨折についても述べました。今回から、一番多い、「腰痛」の話をしたいと思います。
 腰に痛みを感じるというのは、誰でも一度くらいは経験したことがあるといってもいいくらいよくあることです。大抵はしばらく無理をしないでいると良くなります。中には、何かのはずみで強烈な痛みにおそわれ、身動きできずに、救急車を呼ばないといけないようなものもあります。この症状を引き起こす原因は、たくさんあります。整形外科で扱う骨や関節、筋肉の痛み以外にも、内臓からくるものもあります。膵臓炎では苦しいほどの痛みが背中に起こるといわれていますし、腎臓や尿路結石では、石が動くときに強烈な痛みが腰をおそいます。婦人科の病気、たとえば子宮筋腫だとか、子宮後屈といった状態でも腰のあたりの不快感を訴えられる方がおられます。
 腰や背中の痛みを何とかして欲しいと外来に来られた方を診察するとき、私たちは、まず、それが、こうした内臓からのものか、自分の専門分野である整形外科のものかを区別しようと努力します。整形外科の病気ではない症状だと判断すれば、一刻も早く、その病気を治療するのに一番良い医師に紹介しなければなりません。その区別をするためには情報が必要です。一番、簡単で、重要な情報は、患者さんご本人から聞き出す情報です。
 そもそも、診療は患者さんの訴えを聞くことから始まります。これは、整形外科に限った話ではありません。忙しい日本の外来診察では、なかなか十分な時間をとって医師と話すことができないかもしれません。でも、それなら、自分なりのメモを用意して、受診されることをお勧めします。いつから、どこが、どのように、具合悪いのかという病気の経過やこれまでの対応を要領よくお話しいただくと助かります。それ以外に、これまでの大きな病気や手術などの個人の歴史も大切です。アレルギーがあれば、是非、伝えてください。こうしたやりとりの中から、医師は情報を整理して、役に立つものを拾っていきます。診療は医師がするものではなくて、医師と患者さんとの共同作業です。情報をうまく提供する患者さんと、愛情と共感を持って聞く耳を持つ医師とが力を合わせれば、難題の解決がより容易になることは間違いありません。
 さて、腰の痛みです。それが、整形外科の病気からか、内臓からのものか判断するために重要な情報とは何でしょうか? それは、「その痛みが身体の動きと関連性があるかどうか」ということです。
 整形外科は、運動器といって、身体を支えたり動かしたりするときに使う道具の異常を扱う学問です。運動器には何が含まれているか、考えてみましょう。まず、身体を支えるには何が主体となるでしょうか。それは、骨と筋肉・神経です。骨が折れても、筋肉が痛んでも、神経がうまく働かなくても、人は二本足で立っていることができません。普通の人にとって当たり前のように思える立つ(立っている)という活動は、こうした器官が正常に機能することが条件となっているのです。事実、少しでも故障があると、立ってもおれない状態になることは、みなさん経験がおありだと思います。
 次に、身体を動かす時に必要なのは、何でしょうか? それは、関節と筋肉・神経です。関節表面のつるつるの軟骨が傷んでも、ぐらぐらしないように関節を安定させる靱帯が切れてしまっても、うまく動きません。でも、動かす原動力となるのは、筋肉と神経の協調作用です。普通に身体を支えて、生活していくというのは、実に精妙な身体の仕組みのお陰なのです。それで、少しでも、こうした器官に異常が発生すると、自分の思うようにうまく支えて、動かすことができなくなります。
 ですから、整形外科が担当する「運動器」の障害が原因で起こる腰痛の場合は、痛みが身体の動作と連携して起こります。つまり、たいていの場合、動かすことによって痛みが増したり、逆に楽になったりするのです。したがって、じっとしていても痛みが変わらない場合は、整形外科の領域ではなく、内臓からのものを疑うことになります。皆さんも痛みを感じたときに、その痛みがどのようなときに強くなって、どうすれば楽になるかを試してみてください。そして、その結果を医師にお話しいただくと、診断や治療の方針を立てるのに、大変、参考になるというわけです。
 次回から、もう少し詳しく、腰痛の原因と対策を考えていきましょう。



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