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2000.01.01
2000年になりました。西暦がこれだけ世界中に受け入れられている以上、あえて、逆らっても仕方がないことかもしれませんが、宗教上の必然性のない身には、何となく空虚な空騒ぎのような気もします。皆さん、明けましておめでとうございます。今年が、皆様にとって、今まで以上に良い年になりますように、心からお祈り申し上げます。
今回は、年の初めに、自分自身への反省から、今後の医学における課題を考えてみたいと思います。今、日本では、医師として医療行為をできる人は医学部を卒業し、医師国家試験に合格し、医師免許を取得した人に限られています。医学部では、主として西洋医学を学びます。医学生は、教授を筆頭に、研究する姿勢を強く持った科学的思考の先輩医師たちによって、教育を受け、医師をめざしています。その教授の選考に際しては、学会活動など、研究者としての素養の審査に重点が置かれ、臨床の技能はその次、教育者としての考え方や姿勢はあまり重要視されているようには見えません。その指導者に教育を受ける学生たちは、どうしても多くの論文を発表する学者へのあこがれを持つ傾向が強くなってしまいます。そうなると、目の前の患者さんは、「悩みを持って受診された一人の人間」というよりは、「研究のための材料」としか見えないことが多くなってしまいます。必然的に、珍しい病気は歓迎され、個人にとって、いくら辛い症状があっても、ありふれた病気は熱心な対応を期待することはできなくなります。今、こうした医師養成過程を見直そうという動きがあります。医学の学問的な研究が大切であることは言うまでもありませんが、一方で、家庭医というか、かかりつけ医として、地域に密着し、患者さんの生活に入り込んでの診療も、非常に重要な仕事です。しかしながら、こういったタイプの医師を育てるには、現状のやり方では十分でないことが分かってきたからです。
大学病院で臨床実習を受け、難しい病気を研究する先輩医師たちの努力を目の当たりにした頃、私も図書館に行って新しい研究成果を探し、興奮して読みました。世界の最先端に近づいているように錯覚していたのかもしれません。研究者としてのやり甲斐やおもしろさを少し味わったといえるでしょう。その後、卒業して資格を得て、新米医師としての研修が始まります。研修医師を受け付ける病院は、大学病院や国立病院といった大きな病院です。そこでの入院患者さんは、他の施設から紹介されてこられた重症の方ばかりでした。患者さんやご家族は、これまでの経過から、簡単な病気ではないことを知り、覚悟をされて入院されておられました。こういった環境では、患者さんやご家族は、治療者に頼るしかないという心境になられることになります。そうすると、どうしても、治療者と治療を受ける方との関係は並行とはなりません。医師からの説明は、神からのお告げのように聞く姿勢となってしまいます。こういった関係が当たり前の中で、毎日仕事をしていると、いつの間にか、治療者に尊大な態度が身に付いてしまうことは仕方のないことなのかもしれません。そして、自分の研究のために臨床をしているという考え方では、一人一人の個人の悩みにつきあっている暇はないということになるでしょう。
そんな環境の中で、少しずつ医師としての基本的な技能が身についた頃、先輩から、アルバイトでの診療を頼まれました。急に彼が診療できなくなり、ピンチヒッターを頼まれたのです。そこでの診療は、大学病院でのものとはまったく違うものでした。医師を特別扱いする傾向はありません。職員も患者さんも、一緒に軽口をたたき合います。看護婦さんはその方の家族構成までご存じでした。新しい薬を出そうとすると、その方のアレルギー体質のことをそっと教えてくれました。患者さん自身も新しい先生に期待しながらも、「ワシはこうしてほしいんじゃ」「その方法は嫌いです」と、自分の主張をはっきりと告げられます。こうした診療を通して、それまでの自分の考え方の誤りに気づきました。実は、ありふれた病気こそが大切だと思い知ったのです。また、自分が主体で病気を治すのではないということも知りました。治療者はお手伝いだということです。あくまで、病気を治すのはご本人の力であり、生命力、自然治癒力が基盤で、医師はその力を損なわないように、できれば、生み出すようにお手伝いをすることだと分かったのです。その意味では、心理的なサポートがいかに大切か気づきました。最先端の医療は時にこうした暖かい見方が欠如する傾向があります。「論理的な学問」と心理ケアなどの「抽象的な思いやり」とのバランスを取ることが本当に重要です。整形外科診療を続けながら、こうしたヘルスケアを実践するためにどうしたらよいのか、悩むことばかりです。まだ、数は少ないけれども、この考え方に同調してくれる仲間とともに、一つずつ障害を乗り越え、一歩ずつ進んでいこうと話しているところです。
これからの、日本がどのような方向を向いていくのか、私には全然見当もつきませんが、少なくとも、ヘルスケアにおいては、大学主導ではない、患者さんの視点からの診療が見直され、評価されていくと信じています。
年の初めに、えらそうなことを書きました。また、次回から、できるだけ分かりやすく、整形外科の病気やその対処について、書いていくつもりです。今年もよろしくお願いいたします。なお、この欄に対してのご意見やご質問、ご要望をお待ちしています。編集局にいただくか、直接、私の方へご連絡ください。多数のお便りを、期待しております。