読み物BOOKS

1999.12.01

プチトマト 1999年12月号

 

 整形外科では、診察に当たってレントゲン写真を撮ることがよくあります。皆さんは、打ち身や捻挫でレントゲンを撮って、「骨には異常がありませんよ」と説明を受けると安心されるでしょう。医者も、レントゲンが大丈夫なら大したことはないという印象を与える話し方をします。しかし、現実には、ことはそう簡単ではありません。レントゲンに異常がなくても、大きなケガの場合もあるのです。たとえば、軟骨や靱帯というものはレントゲンには映りません。したがって、軟骨が傷んでいたり、靱帯が切れていても、何にもないという結論になってしまう危険性があるのです。最近では、レントゲンに映らないものを目に見えるようにする検査として「MRI」という検査が、よく行われるようになってきました。これは、体の中を輪切りにして見せてくれるCTと似た機械です。でも、放射線を使用しないので、安全性は高いと言われています。機械の値段は高いし、検査料も高くつきますが、これまでだと開けてみないと分からなかった人間の身体の中が、痛い思いをせずに観察できるのですから、大変重宝なものです。

 膝の中の軟骨のクッション板である「半月板」のケガは、この検査で見つけることができます。スポーツ活動で膝が痛いと受診する選手に対して、この検査を行い、異常を見つけることは珍しいことではありません。しかし、こういった検査の有り難みは言うまでもないのですが、時々、落とし穴があります。レントゲンで異常がなくても、痛んでいる場合があるのとは逆に、MRI検査で異常が見つかったからといって、それが痛みの原因ではないということもあるのです。形の異常と症状が必ずしも並行しないのです。ですから、検査の異常とご本人の症状とが、どの程度、関連があるのか、十分に知恵を絞って考えないといけません。検査に異常があって、短絡的に「これが原因だ」と、安易に結びつけては、よい結果が期待できないこともあります。時には、手術など、せっかく辛い思いをしたのに、結局、治らなかったという不幸な結果も起こりかねません。

 最近「脳ドック」と称して、MRIで、脳の検査をすることをよく耳にします。ここで、動脈瘤が見つかることがあります。脳の血管の一部が風船のように膨らんだ状態が「動脈瘤」です。血圧の変化で、これが破裂すると大変です。命にも影響しますし、部位によっては、大きな障害を残すことになります。見つけられた本人にとっては、一大事です。一般的には、胃カメラでガンが早いうちに見つかったのと同じように、「早く見つかってよかった」と喜ばれるのですが、問題は、胃の場合ほど手術が簡単ではない点です。先日、こうして見つかった破裂していない動脈瘤が、将来、破裂する確率は、破裂しないように行う予防的手術での合併症の確率に比べて、非常に低いことが報告され、話題になっています。つまり、見つかって、手術する方が、かえって危険だというのです。そうなると、高いお金を払って検査を受けて、動脈瘤があると言われ、不安になるだけで、何にも有効な予防策がないのであれば、そんな検査は受けない方がよかったんじゃないかということになります。

 このように、人間の身体の中を調べる形の検査は、素晴らしい進歩を遂げていますが、使い道には、まだまだ工夫がいることが分かります。昔のお医者さんといえば、聴診器をぶら下げ、まずは、脈を取って、診察を始めました。それに比べて、今はすぐに検査です。患者さんの身体に、実際に、触れることなしに診断する場合すらあります。検査の進歩は、人間の五感の能力については、低下させる方向に働いたように感じます。医師は、先ほどの動脈瘤の例からも分かるように、必要以上に検査に頼らないように気をつけるようにしなければなりません。やはり、大切なのは、患者さんご本人からの生の情報です。患者さんのおっしゃる訴えにじっくりと耳を傾け、自分の指先や感覚をとぎすまして、丁寧に診察する能力を高めないと、間違った結論になる危険性があることを肝に銘じる必要があるでしょう。

 そこで、皆さんへのお願いです。皆さんからの情報はとても大切なものです。いつから、どのような症状があったのか、それはどんなときに変化して、今まで、どのように対処していたのか、詳しく医師に伝えてください。それが、簡潔に、そして、正確に、伝わるように、診察に入られるときには、是非、何かに書き留めたメモを準備しておかれることをお勧めしたいと思います。

 すぐに、「検査、検査」と、話を聞いてくれず、こちらの顔も見ないような医療者は、あまり信頼できないかもしれませんよ。

 



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