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2025.03.01
社会保障制度は、年金・医療・介護といった「社会保険」、高齢者・障害者・児童のための「社会福祉」、生活保護の「公的扶助」、予防や健康づくり、そして食品安全などの「保健医療・公衆衛生」からなっていて、すべての国民の生活を生涯にわたって支えるセーフティネットとして機能するものとされています。
高額療養費制度の変革が国会で話題になりました。当初は、社会保障制度の維持のためにも、負担上限額の引き上げは避けられないと抗弁していた石破首相は、最終的にはこの変更を凍結させ、決定を二転三転させたと、さらに野党の追及を受ける羽目に至っています。
この高額療養費制度は実にうまく考えられており、一定額を超えた場合にかかった費用が免除される仕組みです。この制度のおかげもあって、医療機関を受診した場合窓口で支払う金額(自己負担額)は、平均的には、医療費の約15%程度になっています。この自己負担額の割合は75歳以上の後期高齢者が約8%、それ以外が約20%となっていて、医療を受ける患者にとって、非常に有益なものと受け止められています。
ところが、がん治療などで高額の医薬品が用いられることが多くなったこともあり、この高額療養費制度のための支出が増えてきたことから、その負担上限額を段階的に引き上げて、政府の支出を減らそうとしたのです。これは、企業や現役期の人たちの保険料負担を増やさないようにする手立てでもあります。それが、患者団体や治療に当たる医師の学求団体からの反対で、当初の案を引っ込めざるを得なくなったというわけです。政治的な綱引きのことは私には分かりませんが、現場の人間として、気になることは、それでは、これからの医療制度はどうなるのだろうという大きな疑問が残りました。
ご承知の通り、日本の人口は死者数が出生数を大幅に上回り、急速に減少していっています。そして、高齢者の割合が高くなり、働き手や子どもたちの割合が減少しています。となると、医療や介護といったケアにおいては、その受け手が増えて、その費用を負担する層が減るという事態になっていくのです。人口というのは、すでに決まった将来となっています。その国で生まれた人を主体とすれば、予測が外れるはずはありません。例外があるのは、移民の受け入れでしょう。他国から流入する人の数が無視できない大きさとなれば、こうした統計も変わる可能性はあります。日本人だけに限れば、これからの社会保障制度の先行きは本当に心配になります。
そこで、他の国の実状と比較してみようと考えました。ただ、社会保障の考え方は世界で一緒というものではありません。国によって違うのです。そこで、国毎の特性や違いが比較できるようにように一定のルールを定めています。現在は経済協力開発機構(OECD :Organization for Economic Cooperation and Development)による基準が用いられています。このOECDの)政策分野別の社会支出では9つの分野に分けられています。各政策分野と、そこに含まれる主な制度・給付を示すと次のようになります。
1)⾼齢:⽼齢年⾦等
2)遺族:遺族年⾦等
3)障害、業務災害、傷病:障害年⾦、障害者⾃⽴⽀援給付、労災保険等
4)保健:医療保険、公費負担医療、介護保険等
5)家族:児童⼿当、児童扶養⼿当、施設等給付、育児・介護休業給付等
6)積極的労働市場政策:教育訓練給付、雇⽤調整助成⾦等
7)失業:求職者給付、求職者⽀援制度等
8)住宅:住宅扶助等
9)他の政策分野:⽣活扶助、⽣業扶助、災害救助費等
この分類に従い、1996年よりその社会支出統計が公表されています。さて、どの分野の支出が多いでしょう? そして、時代とともに、どのような変化をしていると思いますか?
日本の社会保障制度は高度経済成長期であった1960~70年代に国民皆保険・皆年金を中核として確立しました。当時の社会は右肩上がりの経済成長のもと、低い失業率、正規雇用・終身雇用の男性労働者と専業主婦と子供という核家族がモデルでした。その結果、他国と比べて高齢者に対する給付が相対的に手厚くなる傾向がありました。
図: 政策分野別社会⽀出の年次推移
国立社会保障・人口問題研究所 「令和4(2022)年度 社会保障費⽤統計の概要」(2024<R6>.7.30)
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.ipss.go.jp/ss-cost/j/fsss-R04/R04-houdougaiyou.pdf

(注) 2010年度以前と2011年度以降で「⾼齢」と「保健」の集計⽅法が異なることから、ここでの変化が生まれていることに注意。
図でも高齢世代向けの支出を中心に大きく増加していることが分かります。政策分野では、保健、遺族、高齢が主として高齢者向けの項目である一方、住宅、失業、積極的労働施策、家族、障害・業務障害・疾病といった項目は比較的若い世代に対する支出となります。この後者の割合が低いままで大きくなっていないのが、欧米諸国との違いで、我が国の特徴だとまとめられています。
これからの社会支出としてはどの分野に手厚くするべきでしょうか。
いろんな意見があると思います。しかし、考えなければならないことは、財源のことです。お金には限りがあります。私の友人にアイルランド人の医師がいます。彼が昨年来日したとき、アイルランドで問題になっている移民の話が出ました。移民受け入れを進める国は多かったのですが、今その方向転換を迫られている状況となっています。彼は日本の状況を私が説明すると、今後方針を転換して積極的に移民の受け入れを勧めていかない方がいいと思うと感想を述べていました。
ドイツでは、ショルツ政権が生活保護と失業手当をひとまとめにした「市民金」という制度を設立しました。この制度に子供手当を合わせれば、低賃金で働くより収入が高くなることもあるというのです。550万人つまり、ドイツ人口の6.5%が市民金を受けたのですが、その3分の2が外国人か、移民の背景のある人たちだというのです。(川口マーン恵美著「移民 難民 ドイツからの警鐘 たった10年で様変わりしたヨーロッパ」(グッドブックス 2025.2.13))
こんなに手厚い生活保護をしていたら、ドイツ国民も移民・難民の人たちも働く意欲は失せてしまうのではないでしょうか。政府は、労働力確保のために難民を受け入れ続けているわけですが、お金は出て行くし、労働力の補充にもなっていないということになります。
私たちの国日本は、世界で最も高齢人口の割合の高い国となっています。その国の社会保障とその将来を考えたとき、どのような制度であるべきか、検討する際の考えの基盤に、どこからどんな風にお金を持ってくるのか、つまり財源の問題を忘れてはならないと思うのです。これまでと異なり、働き手の世代、つまり税金や保険料を背負う世代の人口が減少していきます。その一方で、医療や介護サービスを必要とする高齢者の数はそれほど減りません。むしろその需要は増えていきます。そんな環境下で、質の高い医療や介護が必要な事態になればすぐに誰でも受けることができる、そんな体制をどのように維持するのか。厳しい判断が求められると思うのです。そのためには、節約すべきところは節約していかねばならないと思っています。