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2025.06.01

VUCA 現代を表す言葉から、これからを考える(2025.6)

現代がVUCA(ブーカ)時代と呼ばれているのをご存じでしょうか?これは、次のような時代を象徴する四つの言葉の頭文字を取って表した言葉です。その四つというのは、環境が安定せず激しく変化して(変動性:Volatility)、その変化は思いがけないもので予測不能(不確実性:Uncertainty)、多くの要素が複雑に絡み合って、因果関係が分かりにくい状態(複雑性:Complexity)と、分かりやすい情報が不足しており状況の理解が難しい状態(曖昧性:Ambiguity)とされています。元々はアメリカの陸軍戦略大学で作られた資料からのものということで、冷戦終結後の複雑化した90年代の国際情勢を意味する軍事用語だったそうです。それが、2010年代に入ると、ビジネス、経営、管理の領域においても変化が激しく、先行き不透明な社会情勢を指して、外部環境を総括する言葉として用いられるようになりました。
確かに、予想外の出来事がこのところ続いているようにも思います。たとえば、新型コロナウイルスのパンデミックが起こりましたし、地球温暖化に伴う気候変動や異常気象で、四季の移り変わりをのんびり味わうことができず、気候に追われているような気さえするようになっています。そして、台風や地震、集中豪雨など、予測が困難な事態も続いています。ウクライナへのロシアの侵攻や、ガザ地区でのハマスとイスラエルの抗争など、まさに血なまぐさい戦火が絶えない状況でもあります。
さらに、100日を迎えようとしている2期目のトランプ政権が、関税に代表されるように、発足以来次々と仰天の政策を打ち出しています。この矢継ぎ早に出されるトランプ大統領の政策に日本を含め、世界中の国々が振り回されています。

 

このVUCAが特徴だとされる時代は、従来の常識や経験だけで対応することができません。まずは、情報を積極的に集め、分析して、状況を正確に把握し、それに対して柔軟に対応する「問題解決力」が求められます。その意味では、この事態を乗り切ることができるものとできないものの差が明らかになる環境、つまり、勝者と敗者がはっきりと分かれる時代であると言えるかもしれません。
間違いなく言えることは、この時代に必要なのは、自らが情報を集め、自分の頭で考え、どうするかを決める能力となるように思います。私たちの生活はいつの間にか、とても便利になってきました。布団からベッドに、和式トイレは洗浄できる西洋式のトイレに変わりました。階段ではなく、エスカレーターやエレベーターが当たり前になっています。掃除、洗濯、炊事など、大変な手作業であった家事も、機械化が進みました。情報通信も変わり、何かを調べるとして、重くて大きい百科事典を開くことなど笑い話で、ネットで検索が普通になりました。お互いの連絡も携帯電話を使い、固定電話や公衆電話がなくなりつつあります。

 

ところが、その弊害もあることに最近私は気付いています。それは、漢字を忘れていると言うことです。私が医師になった当時、研究論文は原稿用紙に書くスタイルでした。当然、先輩や指導教官から訂正の指示が入ります。そうすると、最初から最後まで再び全部書かなければならないのです。何度も書き直しをしているうちに、頭の中に文章が染み付いて、部分的にではありますが、原稿を見なくても書けるようになったのを覚えています。今は変わりました。訂正は簡単です。電子的な情報ですから、一度入力してしまえば、訂正箇所だけを書き直して、保管すればいいのです。こうした利便性は、ひょっとすると危ないかもしれません。自分の頭を使う頻度が減っている可能性があるのです。これは、VUCA時代を乗り切るには、危険な状況となります。

さらに昨今徐々に普及しつつあるAIは、ますます自らの頭で考える力を奪う可能性があると推察しています。確かに、AIはうまく使えばとても便利なシステムですが、万能ではありません。過去のデータに従って動くのですから、そのデータが不十分であったり、数値化できないこと、たとえば、人間の感性から生まれるような創造的なアイデアについては期待することはできません。これからの私たちは自分たちの考える力を高めていく必要があると確信しています。

 

 私は、自分が医療・介護の業界に身を置いているだけに、人口減少とともに、さらに進みつつある少子高齢化のもとで、日本の社会保障制度が大丈夫だろうかと不安になることもあります。自分はもう存在していないのですから、次の時代を心配しても、仕方がないことではあるのですが、やはり気がかりです。ケアを提供する側とケアを受ける側が一緒になって現状を知り、変化する時代で自分たちはどうすれば良いのか、率直に意見交換をし、議論を深める必要があると思います。それがなければ、身動きのとれない事態が起こると不安に襲われるのです。今の恵まれた状況がいつまでも続かないこと、何がどのように変わるかを情報共有して、新しい時代を切り開いて欲しいと願っています。人ごとではありません。自分たちの頭を最大限使い、考えましょう。



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