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2023.08.01
皆さんは腰が痛くなったらどうしますか? 私からは、常識というか、当然するべきだという事柄に、実は科学的ではない思い込みが含まれていることをお話ししたいと思います。
一つ目は、腰の痛みを起こす原因についてのことです。一般的には、レントゲンをとることが多いですよね。ことに最近ではCTやMRIといったより詳しい検査を行ったりすることも普通になってきています。そして、そこに映し出された形の異常について説明を受けると、医師の言い方にもよるのですが、それが原因であり、最終的には手術しなければ治らないということになると、今後の生活について悲観的な予測が頭を占めることになると思うのです。
しかし、こうした変化の中で加齢によるものが普通に、どれくらいの頻度で見られるものなのかということは知識として知っておくべきだと思うのです。
この下の図はずいぶん昔のデータではあるのですが、MRIが普及し始めた1990年にBoden博士たちがアメリカの有名な整形外科の専門誌に発表したものです。腰には痛みなどの症状の全くない人に対してレントゲンやMRIを撮影し、その結果を年代別に示しています。
図:腰の症状のない人のMRI所見
ここで椎間板変性というのは、椎間板に含まれる水分の量が減ってきて、多くの場合その高さが低くなり、狭くなっている状態をいいます。膨隆は、その言葉通り、膨らんでいる状態ですね。髄核脱失というのは、聞き慣れない言葉だと思いますが、椎間板の中身である「髄核」が、外にはみ出た状態で、これが、神経に影響を与えたとき腰椎椎間板ヘルニアという病名がつけられます。そして、脊柱管狭窄というのは、神経の通っているスペースが狭くなっている状態です。これによって、神経の障害が生じると脊柱管狭窄症ということになるのです。
この図にあるように、症状がなくても、MRIではたくさんの異常が見つかることがわかりますね。仮に、腰が痛くなり、筋肉が原因の痛みだとします。しかし、MRIを撮影して、こうした異常が見つかったらどうでしょう。医師は、その異常と症状とも結びつける傾向があるのです。ですから、本当に重要なことは、こうした変化が本当に症状を生む原因になっているかどうか、症状の起こり方や特徴を十分に聞き取り、その他の身体所見などをきっちり触って確かめた上で、総合的に判断しなければならないのです。髄核が脱失しているという所見からだけで、「椎間板ヘルニア」と診断してはいけないという意味でもあります。
さて、二番目は、具体的な対処、特に、安静についてです。腰の痛みは辛いものです。特にぎっくり腰と言われるような、急に強い痛みが出る腰痛は、心配になりますし、本当に困りますよね。どれほど、身体を動かすのに腰が重要か、しみじみ知らされることになるでしょう。
そこで、多くの方は、「とりあえずの安静」というか、動かないようにされると思います。
最近、これは正しくないという広報が厚生労働省をはじめとして、一般の医療機関でも情報を流すようになってきているようになってきているのですが、ご存じでしょうか?
つまり、痛いからといって、動かないでただじっとしているというのは、むしろ良くないというのが今や世界の常識になっているのです。
では、具体的にはどうしたらよいのでしょうか?
まずは、気をつけなければならない腰痛を除外する必要があります。すべての腰痛がともかく動けば良いというのでもないのです。気をつけてほしいポイントは、1)寝ていても痛むというように、じっとしていても痛むこと、2)お尻や脚に痛みが響いたり、しびれを感じること、3)歩くと脚がしびれてきて座りたくなること、こういったサインがあれば、医療機関への受診が勧められます。
そうでなければ、痛みを起こす動作は避けて、動けるようならできるだけ動く方が良いというのが今の方針となっています。動くというのは、例えば、痛くならないように静かに寝ていても、例えば、足首を上下にしたり、膝を立てたりすることはできるはずですよね。こういう痛みを起こすことはなく、できることについては、自分からする方が良いということなのです。
さらにいえば、いつもの普段の動作である、歯を磨いたり、入浴したり、さらには家事をしたりすることも、むしろする方が良いのです。ただ、腰に負担をかけるような急な動きは避けて、気をつけながらということにはなります。
なぜ、動く方が良いと思いますか? それは、動かないことということで奪われるもの、また失うものがとても大きいということが明らかになってきたからです。ことに高齢者では、その影響は若い人に比べて、とても大きなものとなります。
一つ、例をお示しします。残念なことに、女性では、閉経後に骨粗鬆症という骨の中身というか骨の密度が低下してもろく、折れやすくなってくる病気にかかりやすくなります。その状態になると、例えば、畳の上で、ちょっとよろけたという程度のことでも、股の付け根の骨(大腿骨)が折れてしまったりするのです。
歩けない場合がほとんどですから、急ぎ医療機関を受診されることになると思います。それを受けた施設では、レントゲンで診断が明らかになった場合、できるだけ早く手術をして、金具で折れたところを固定して、できるだけ早く起きて動いてもらえるように、努力することになります。1日遅れると、回復が1週間遅れるといってもオーバーではないほど、手術までの時間、つまり、動いてもらえるまでの時間が重要になるということなのです。
このことを熟知している医療機関では、受診されてから48時間以内に手術が可能となる仕組みを用意しています。つまり、受診されて診断がつくかつかないうちに、病床を確保し、執刀医の予定を押さえ、ご本人のみならず、ご家族にご了解をいただくための説明の時間を調整し、ご本人の医学的な情報を収集し、安全な麻酔のための準備を進めるといったような準備を進めるのです。
ちょっと脱線しましたね。ともかく、強調したいことは、痛みがあったとしても、レントゲンやMRIの結果は、異常があっても、それが症状の原因になっている場合とそうでない場合があるので、十分に確認すること、そして、できるだけ、動くことをやめないことということです。参考になれば幸いです。