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2023.02.01

サッカーワールドカップを見て(2023.2)

 

 中東カタールで開催された昨年のサッカーワールドカップ。予想外というと失礼になりますが、素晴らしいゲームを繰り広げた日本チームの活躍に、にわかサッカーファンがおそらくずいぶん増えたことだろうと思います。
12月18日に行われた決勝ではアルゼンチン代表とフランス代表が対戦し、PK戦にもつれ込む激戦の末、アルゼンチン代表が36年ぶり3度目のW杯制覇を果たし、幕を閉じました。大会最優秀選手(MVP)は、7得点3アシストの大活躍でアルゼンチン代表の優勝に大きく貢献したリオネル・メッシ選手が選ばれ、また、大会得点王は8得点を挙げたフランス代表のキリアン・エンバペ選手が受賞しています。
大会終了後、国際サッカー連盟(FIFA)は大会を総括し、「傑出していたチーム」として、優勝したアルゼンチン代表や2大会連続でベスト4に進出したクロアチア代表、アフリカ勢初のベスト4進出を果たしたモロッコ代表とともに日本代表を紹介しています。過去4度のW杯優勝を誇るドイツ、そして、21世紀の強豪スペインと同じグループで戦い、強豪国を撃破して2大会連続でグループステージを突破した戦いぶりを称賛しているのです。何だか誇らしいですね。

 

 ただ、私としては、この競技について、二つほど、気になることが残っています。一つは、選手が接触したときの反応です。ことに、ゴールエリアではその倒れ方や痛がり方が過剰のように思えるのです。おそらく点につながるPKと絡むからではないかと想像しています。
仕事柄、スポーツ選手のケガについてはとても気にして観戦しています。繰り返しスロービデオで接触の様子を映してくれる最近の報道では、損傷の起こり方がとても詳しく観察できるので、スポーツ外傷を診ることが多い医師としてはとても勉強になります。どのようにして損傷を受けたかを詳しく知ることは、どのように治せば良いかを考える上で、とても参考になるのです。
 ところが、ピッチで転げ回って痛がる選手がどのように傷めたか、画像を繰り返し見せてもらっても、よく分からないケガが時にあるのですね。実際、そうした場合、しばらくして立ち上がった選手は何事もなかったかのように走り出したりします。これには、本当に残念な気がします。

 

 ラグビーは、基本的に身体の接触が前提の競技です。人間の身体がぶつかる時に出る音に関しては、相撲の稽古場に初めて行ったとき、驚いた記憶があります。鈍くお腹にずしんとこたえる低音の特殊な音がするのです。大きな選手同士が向き合った方向を勢いよく走ってきて、正面からぶつかる場面を近くで見ていると、本当に怖い気持ちになります。当然、ケガは起こります。しかし、サッカー選手のような痛がり方をする選手を見たことがありません。何が違うのでしょうか?
 医師やトレーナーという職種が待機していたり、チームに同行するような仕組みのなかった時代、魔法のやかんというのがありました。ガツンと打ったり、捻ってこけても、やかんの水をかければ、痛みはどこかにいって、選手たちは走り出すことができたのです。それがダメな場合は重症だという認識がみんなにあったように思います。
 私にとっては、選手自身の痛みの表出というか、訴えが対応を行う上で、とても参考になることから、あまりに大げさなのも、また、あまりに我慢強いのも両方ともにリスクがあると考えています。

 

 さて、もう一つの疑問は、守っている側の選手が攻撃しているプレーヤーのユニフォームを露骨に引っ張って、勢いを止めている場面をよく見ることです。見ていて気持ちのよいものではありません。しかも、近くにいる審判はそのプレーに対して、笛を吹きません。あれはファウルにはならないのかと疑問に思い、調べてみました。皆さん、どう思いますか?
審判資格者の立場で、こんな説明があることを知りました。基本的にはファウルなのですが、笛を吹けないケースが多いというのです。攻撃側の選手が有利な状況で試合が進んでいるときに笛を吹いてプレーを停止するのは審判として推奨されず、プレーは流すべきだと教えられると聞いて、なるほどと思いました。スピードが緩んだとしても大勢に影響がなければそのままにするんですね。ただ、攻撃側選手がユニフォームを引っ張られたためにバランスを崩して、シュートが打てない状況になったりした場合はファウルとして笛が吹かれますし、ペナルティーエリア内ならPKが与えられることになります。
 こうした審判の判断をプレーオンアドバンテージというのだそうです。その場合、両手を前に広げ、自分の判断を示すポーズをとります。つまり、審判が反則にもかかわらず、笛を吹かないのは攻撃している側に有利な状態が続いていて、プレーを続行することが攻撃しているチームにとってプラスになると判断したからというわけです。

 

 

私が危惧するのは、子供たちのサッカーでも同じことが起きていると聞いたからです。当然、テレビで見る試合は憧れの選手たちが出場します。自分もいつかはあんな風にボールを扱い、あのようなタイミングであんなパスを出したいと願うでしょうし、ゴール前で相手をかわしてシュートに持って行く動きの一つ一つを必死で観察し、一生懸命応援しているに違いありません。そこで、選手同士が交錯したあと痛がって転げ回っていたり、あるいは、守りの中で相手選手のユニフォームをしっかり掴んでいるところを見れば、当然、自分たちも真似をするに違いありません。彼らが自分たちの試合の中で同じようなことをするとすれば、せっかくの熱戦に水を差すような場面になると思うのです。何か、これを止める手立てが要るでしょう。仮に、プレーオンの判断をしたとしても、プレーが途切れたときに、その行為に対してイエローカードを出すという仕組みでも良いのではないかと思うのですが、皆さんはどう思われますか?
さて、次回の2026年大会はアメリカがカナダ、メキシコと共催することになっています。そこでの日本チームがさらに強さを見せつけてくれることを祈っています。一緒に応援しましょう。



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