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2022.12.01
ユーミンは荒井 由実の芸名で1972<昭和47>年にシングル「返事はいらない」を出してデビューしています。それから今年2022<令和4>年で50年となり、ユーミン50周年を祝う企画が出ています。10月4日には究極のオールタイム・ベストアルバムとして「ユーミン万歳! ~松任谷由実50周年記念ベストアルバム~」が発売されました。そして、オリコン週間ランキングでは初登場で1位を記録しています。
このアルバムには新曲「Call me back」が収録されています。これが実に奇妙な作りなんですよ。「50年の時を超えて」をテーマにして、名義が「松任谷由実 with 荒井由実」となっています。どういう意味だと思いますか? なんとですね、1980年のオリジナルトラックに、新たに歌詞を書き下ろして、しかも、現在の松任谷由実と、最新のAIで再現された荒井由実のボーカルとがデュエットしているというのです。聞いてみたくなりますよね。
さて、このアルバムに彼女は次のようなコメントを寄せています。
想像さえしなかった50年。
振り返ればあっという間の半世紀。
変わりゆく世界の中で、
変わらない思い出を、
私の歌を愛してくれた皆んなと、
分かち合いたかったのです。
彼女は1954〈昭和29年〉生まれですから、私とほぼ同世代です。一緒に50年を過ごしてきた世代とも言えますが、私は彼女の楽曲を聴くと、その時代の自分自身の思い出とともにその頃というものが匂い立つように思い出されます。世代が変わっても、彼女の歌が持つ不思議な想起力はきっと強力に働きかけるでしょう。世代が違い、思い出す中身が違っていても、彼女の歌は、誰にとっても同じように生々しく輪郭のはっきりした感慨をその人の心に浮かび上がらせることだろうと推察しています。
私が一番思い出す曲と言えば、「春よ、来い」ですね。1994年に始まった同名のNHK連続テレビ小説の主題歌でした。サビの「春よ 遠き春よ」というフレーズは強く春の訪れを待つ気持ちにさせます。でも、歌詞は切ないですね。文語調の歌詞はなぜか実らぬ愛の姿を描いているようです。一部を抜粋して紹介します。
それは それは 空を越えて
やがて やがて 迎えに来る
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする君に預けし 我が心は
今でも返事を待っています
どれほど月日が 流れても
ずっと ずっと待っています
それは それは 明日を超えて
いつか いつか きっと届く
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
50年前の1972<昭和47>年といえば、私は大学2年生、山口市の湯田温泉に近い下宿で生活していました。6畳一間の鰻の寝床のような部屋。家賃は2600円だったと記憶しています。移動手段は自転車、部屋にはテレビもありませんでした。ラーメンは電熱器で作るので、いつもふにゃふにゃの麺になっていて、おいしくありませんでした。
そんな1972年、何があったでしょう。1月にグアム島から敗戦を知らずに、一人でジャングルに潜伏し日本軍が帰ってくると信じて生活していたという横井庄一さんが帰国しています。28年間をジャングルで過ごした横井さんは満57歳でした。羽田空港での記者会見での発言から、「恥ずかしながら生きて帰って参りました。」がその年の流行語となりました。
この当時、社会は高度経済成長のまっただ中で、1964<昭和39>年の東京オリンピックに続いて、1970<昭和45>年には大阪で日本万国博覧会が開催され、海外からの入場者を含め、多くの参加者を集めました。戦後の復興を目の当たりとして、世界に通用する日本になったという自信のようなものが国民の間に確立してきた時代とも言えるでしょう。そこでのこの横井さんの帰国と彼の発言は「まだ戦争は終わっていない」と厳しい現実を思い出させ、浮ついた気分や世相を冷やすような効果があったように思います。
それでも、2月3日には札幌での冬期オリンピックが開催されました。スキージャンプ70m級(現在のノーマルヒル)では笠谷幸生選手の金メダルに続き、金野選手、青地選手が銀、銅と続き、日本人が冬季オリンピックでは初めて表彰台を独占、日本のジャンプ陣は「日の丸飛行隊」と呼ばれました。
それから50年、今、再度札幌でのオリンピック誘致が行われています。しかし、残念なことに2020年の東京オリンピックへの誘致に絡む贈収賄事件が報道され、逮捕者も出ている状況です。「政治とカネ」は度々話題になりますが、個人的には「スポーツとカネ」はひっついて欲しくありません。これも50年間に変化したことなのでしょう。
ユーミンがデビューした50年前を振り返りましたが、きっとお一人お一人が耳に残る彼女の歌があり、その歌を聴くと思い出す自分やその時代があるのではないでしょうか? 彼女の声は不思議だと思いませんか? 声量が格別大きいわけではない、どちらかと言えば歌い方もサラッとしているというか、素っ気ないくらいの調子なのに、なんであんなに心に届くのでしょうね。専門的なことは分かりませんが、何か特殊な力があることは間違いないと感じています。
このユーミンのデビュー50周年を記念した全国アリーナツアーが決定さていますよ。来年の5月13日(土)、14(日)に横浜のぴあアリーナ MMからスタートで、12月まで約50公演が予定されています。大阪は5月27日(土)、28日(日)に大阪城ホールでの公演があります。
50年はあっという間、その感慨と同時に、残された日々が着実に減っていくという実感も持っています。短くなっていくその時間をどんな風に過ごすのか、一日はユーミンの声を聴いて過ごすのも良いなぁと思う反面、ずっと飛び跳ねているのは無理とすねる自分もいます。