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2022.01.01

人間の身体の不思議(2022.1)

 人間は、これからどうなるのだろうと先を想像します。そして、その想像にしたがって行動する動物と言えるかもしれません。その予期は当たることもありますし、外れることもあります。予期が外れること、その可能性が高いことは不確実性につながります。
 私は整形外科医として仕事してきて、レントゲンやCT、MRIといった画像検査の結果が診断や治療に直結するため、その読影が大事だと教えられてきました。代表的なのが、変形性関節症です。関節の軟骨が加齢とともにすり減ると、レントゲンでは関節の間の間隔が狭くなってくるのです。それが進むと、骨と骨が直接こすれるために強い痛みが出ると患者さんに説明してきました。ですから、最終的には、人工関節を行い、いわば部品交換をすることになると伝えてきました。
 ところが、軟骨がすり減っても痛みを訴えない方がたくさんおられることに気付いて、この説明では納得できなくなってきました。実際、関節の周囲の筋や筋肉に対してストレッチやトレーニングを指導したり、乱れている姿勢や使い方を矯正するように指導すると痛みが改善する方も多く経験します。
 とすると、あの軟骨がすり減るから痛むのだという論理は成り立ちません。運動療法を行って痛みがなくなった方の画像は、何も変わっていないはずです。運動で軟骨が元通りに戻ることはないからです。では、痛みはどこから来るのでしょうか?

 整形外科医に限らず、西洋医学を学んだ医師たちは原因を追求し、それが分かれば、治療を行い治癒に導くことができるという科学的な根拠に基づく「医学モデル」での対処を行ってきました。しかし、どうも、物事はそう単純なものではないということのようです。
 単純で強力な一つの因果関係だけで、症状を説明できるほど、人体は単純ではないと私は考えるようになりました。一人一人の人間は、それぞれが違う遺伝子を抱えてこの世に生まれてきます。そして、人生を歩み始め、成長に従い、病気や怪我を経験しますし、それの治療も受けます。疾患の症状に加えて、痛い注射や苦い薬、長い点滴を味わうわけです。その体験は身体に染みつき、簡単に忘れることはないでしょう。
 そうした過去が刻まれた肉体と精神を持った個体が年を取り、機能が変化してきます。目や耳は悪くなり、体力は衰えますし、反応も鈍くなります。そこで、また何かが起こるのですね。背景のまったく違う個体に起こった現象を、たった一つの理屈で対応すること自体が問題なのではないか、私はそう考えるようになりました。

 ただ、間違いなく言えることは、人間の頭も身体も使わなければどんどん駄目になっていくということです。何が起こるか予測することも、それに対してどうすれば良いかという対応も、いずれも不確実な中でベターな対応を探していくことになりますが、ご本人は、自分にできる活動を継続することが一番大切ではないかと思います。今できていることを明日も、明後日もできるように、ともかく動くことをやめないことです。
 科学がどれほど進歩しても、医療の不確実性をゼロにすることは不可能だろうと思います。その中で、個人ができることをきちんと続けること、それが最も確実な対策ではないかと考えています。



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