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2020.10.01

不確実な時代における準備(2020.10)

 

 2011(H.23)年3月11日に東北地方の太平洋岸に地震が発生しました。それに引き続いての大津波、火災、さらに、福島第一原子力発電所事故が発生し、大規模な地震災害となりました。22,000人以上の死者・行方不明者が発生しています。甚大な被害を出さないために、もっとすることがあったのではないかという批判が出るのは当然でしょう。その時、災害への備えをいとも簡単に蹂躙したこの大震災が想定外の規模であったことがいわばその口実として語られたことは記憶に新しいと思います。
そして、その東日本大震災の後も、さまざまな天災が起こりましたし、今年は新型コロナウィルス感染症の世界的大流行です。それに伴い経済の危機も危惧されています。

何だか、こうした想定外の出来事の頻度が上がってきたように感じませんか? 忘れた頃ではなく、忘れる前にやってきていている気がするのです。まさに、将来について、予測することができない「不確実性(Uncertainty)」の時代といっても、よいのかもしれません。実はこの「不確実性」という用語は経済学で用いられています。何が起こるか予測できないと言うことですね。一方、将来の何かが起こるかもしれない確率を大体でも知ることができる状況はリスク(Risk)と表現して区別しています。リスクは少しは予想できるが、不確実というのは何も分からないと言うことですね。つまり、不確実な社会ということは、将来のことを予測することなど不可能だということになります。
これだけ科学が進歩し、さまざまな情報があふれるほどの時代となっていますが、生活における危機的状況については、確立された対策はないのですね。とすると、起こってしまった事態に、どう対処するかというリスクマネジメントの観点からの準備を充実させることしかないことになります。

 

社会保障制度というのは、こうした事態に備えておく制度といっても良いと思います。病気やケガで治療に医療保険が、介護が必要になったときのために介護保険が、働けなくなったり、失業した時のために老齢年金や雇用保険があります。経済的に立ちゆかなくなった時のために、社会全体で支えるべく生活保護や公的年金の制度があります。そして、このCOVID-19による活力低下した社会においても公的年金や雇用保険の給付は滞ることなく行われています。

 

ここで思い返していただきたいのは、コロナの影響に対する財政政策についてです。当初の政府案では「所得急減世帯に30万円給付」とされていました。この時の給付総額は約4兆円を想定していたといいます。ところが、その後の議論で、一律国民1人10万円給付と方針が変更となりました。このように給付対象が一気に拡がると1件あたりの給付額は1/3になったにもかかわらず、給付総額は一気に膨らみ、総額12.6兆円となってしまったのです。つまり、本当に救済措置が必要なところがきちんと選択できないため、総花的な対処となって、救済の価値は薄まるというのに総額が増えるという問題を抱えることになるのです。
そこで、こうした矛盾に対応する効率的な社会保障制度の確立に向け、世界では、ミーンズテスト(資力調査)による差別化と言った問題点をうまく緩和し、受給すべき人をできるだけ正確につかみだし、適切な援助が迅速にできるような制度を取り入れるようになってきています。
たとえば、スウェーデンでは各個人(家庭)の所得・資産がガラス張りとなっていますし、アメリカでは、社会保障番号が口座と直結し、財政状況が丸裸になる仕組みとなっており、困ったときには受給される権利があるという考え方になっていると聞きます。
こうした制度は、情報の電子化、つまりディジタルの進化が支えていることは間違いありません。一つ間違えると、中国の例のような監視社会となるリスクがあるのですが、うまく使えば、効率的な税金の使い道となることにつながるのです。
安倍前首相の突然の辞任の後、新しい首相となった管氏は、世界と比べてのディジタル化の遅れを痛感しておられるようで、就任早々、指示を飛ばし、新しい省庁も立ち上げ、マイナンバーカードの普及を目標として掲げておられます。これが、アメリカのような社会保障番号による管理につながることを想定されているのだろうと思います。

 

40年前の1980年に、大平内閣で「グリーンカード」という制度が議論され、納税者番号によって総合課税を行う仕組みが生まれそうになったことがあります。それが金融機関や中小企業からの大反対で廃止となりました。個人お財布の中身など個人情報が知られることへの強い抵抗感が、制度発足への逆風となっています。
 不確実な時代を、大きな損害を受ける人たちを可能な限り少なくすることで乗り切っていくために、この制度を受け入れていくのは、一つの方策ではないかと私は考えるのですが、皆さんはどう思われますか?



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