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2020.04.01

国の責任と国民の自覚(2020.4)

 

1946(S.21).11.3に公布され、翌1947(S.22).5.3に施行された日本国憲法の第25条はこう記されています。

1項 全て国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2項 国は、全ての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

ここで、社会福祉、や社会保障、公衆衛生という文言が用いられ、国民のいわば健康権が保証され、そこでの国の責務が明らかとされました。これ以降、その時々の経済状況や少子高齢化といった社会環境に影響を受けながら、社会保障分野での政策が打ち出され、制度創設から見直しなどの変遷を遂げてきました。
10%前後の経済成長率のあった高度成長期の1961(S.36)年には、国民皆保険・皆年金制度が創設されました。さらに、豊かな財政を背景に、年金給付額が上がり、老人医療費無料化といった社会保障の拡充が行われ、1973(S.48)年は「福祉元年」とも呼ばれたのです。
昭和50年代になると経済成長率は5%前後となり「安定成長期」となります。厳しくなる財政状況の中での高齢化の進展に対応するため社会保障制度の見直しが行われることになります。大盤振る舞いともいえる老人医療無料化を見直し1983(S.58)年には老人保健制度が全面的に施行されます。
 この法律の第一章 総則は、以下のような内容となっています。

第一条(目的)
  第二条(基本的理念)
1 国民は、自助と連帯の精神に基づき、自ら加齢に伴つて生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、老人の医療に要する費用を公平に負担するものとする。
2 国民は、年齢、心身の状況等に応じ、職域若しくは地域又は家庭において、老後における健康の保持を図るための適切な保健サービスを受ける機会を与えられるものとする。
第三条(国の責務)
  第四条(地方公共団体の責務)
  第五条(保険者の責務)

 

私は、基本的理念の文章の冒頭にある主語が「国民」となっていることに注目しました。第三条以下に、国、地方公共団体、保険者のそれぞれの責務が書き込まれてはいるのですが、最初に国民が主語の文章があるのです。
 そこでは、国民自ら健康の保持増進に努めるよう要請されています。
 1990(H.2)年頃バブル経済の崩壊を機に、経済は低成長に低迷することになります。その一方で、少子高齢化はますます進展し、1994(H.6)年には全人口に占める六五歳以上人口の割合が14%を超え、高齢社会に突入することになります。
 こうした社会環境に対応するためさらに、社会保障制度の見直しが進められます。老人福祉法から医療分野を切り離し、老人保健法を制定したわけですが、これも財政的に立ちゆかないことに加え、医療保険を利用して病院に入院する高齢者が多く、社会的入院として問題になってきたこともあり、新たな高齢者福祉を担う仕組みとして介護保険が創設されました。介護保険法が制定されたのは、1997(H.9)年のことでした。
この法律の第一章 総則は以下の構成となっています。

第一条(目的)
第二条(介護保険)
第三条(保険者)
第四条(国民の努力及び義務)
 国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする。
2 国民は、共同連帯の理念に基づき、介護保険事業に要する費用を公平に負担するものとする。
第五条(国及び地方公共団体の責務)

この介護保険法では、第四条で明確に国民の努力と義務がうたわれています。
2012(H.24)年11月から開催された社会保障制度改革国民会議は、翌2013(H.25)年8月報告書を出します。報告書には「確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋」という副題がつけられ、制度の持続可能性を意識していることがうかがえます。
まず、社会保障制度の基本的な考え方として、「自助を基本としつつ、自助の共同化としての共助(=社会保険制度)が自助を支え、自助・共助で対応できない場合に公的扶助等の公助が補完する仕組み」と規定をしています。あくまで、自助が基本というスタンスです。 2016(H.28)年の財政制度等審議会 財政制度分科会での「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」という方向性につながる考え方といえます。

 2002(H.14) 年には健康増進法が施行されます。ここでも第一章 総則に以下の条文が並んでいます。

第一条(目的)
第二条(国民の責務)
  国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。
第三条(国及び地方公共団体の責務)

 第二条に国民の責務が来て、自ら健康の増進に努めるよう書かれています。
 さらに、持続可能な社会保障制度とするため、2014(H.26)年第六次の医療法改正がありました。具体的な方策として、地域包括ケア体制を作るべく、地域の医療機関に対して病床機能報告制度などさまざまな仕組みを設け、地域医療構想を具体化しようとしています。同時に、国民に対しても次のような条文を法律に書き加えています。

第六条の二の3
国民は、良質かつ適切な医療の効率的な提供に資するよう、医療提供施設相互間の機能の分担及び業務の連携の重要性についての理解を深め、医療提供施設の機能に応じ、医療に関する選択を適切に行い、医療を適切に受けるよう努めなければならない。

 ここでは、医療のかかり方というか、使い方に関して、国民の理解を求めているように読み取れます。
 さて、ここまで、戦後すぐの日本国憲法から、最近の医療法改正まで、経済状況や高齢化といった社会情勢のもとでの社会保障制度の変遷について、まとめてきました。
皆さんはこの変化をどのように感じ取られますか? 国が面倒を見なくなってきたのはけしからんという意見をお持ちの方もおられるでしょう。また、金がないのだから、ある程度我慢は仕方ないのかもしれないが、それにしても、何とかならないものかと方向性に不安を持つ方もおられるでしょう。
私は、自分自身が医療現場で働いていて、医療・介護費用が本当に効果的・効率的に利用されているのか疑問に感じることがあります。もっと、無駄をなくし、お互いが大切な医療や介護の資源を有効に使うよう工夫をしなければならないと痛感するのです。それで、国が責任を持って整えなければならないことと、国民自らが状況を理解し、みんなで日本の制度の良いところを持続できるよう協力しなければならないことがあるという思いが強いです。そうした整理をしなければ、本当に手厚いケアが必要な方に、適切なタイミングでケアを届けることができなくなってしまいます。
私たち医療・介護にたずさわるものの責任として、現場の状況を詳しく説明し、効率的な利用について、協力いただくことは是非お願いしたいと思っています。きちんとした情報提供が何より重要だと言い聞かせているところです。
何なりとご要望やご質問をいただければと思います。よろしくお願いします。



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