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2019.09.01

人生の目的意識(2019.9)

 

皆さん、ご自分の人生の目的を考えられたことありますよね。私は、日々、患者さんと接する仕事をしてきました。整形外科というのは、骨や関節といった運動器の悩みで来られる方ばかりです。医師になってしばらくは、ともかく最新の情報を学会や雑誌から吸収しながら、自分自身が一人前の恥ずかしくない整形外科医になるため、一生懸命勉強していました。その時の私自身の人生の目的は、自分は整形外科医だと胸を張って言えるようになることでした。したがって、その基準は、技術的な習熟であったように思います。
その後、経験を積み、たくさんの手術を行ってきて、私は自分の立場を考えたあげく、メスを置くことにしました。外科医としては、ここで終わりと決断したのです。それは、30代で理事長・院長を承継し、自分なりに管理の勉強などしていましたが、何よりも医師としての実力にこだわっていたわけです。それが、この時、管理が片手間でできるほど容易なものではないことを実感したことと、周囲を見渡してみて、自分が行ってきた手術に関しては、代わりにできる人材が育ってきていることに気付いたからでもあります。つまり、手術する医師はいるけれども、手術などの仕事をやりやすくしたり、効率的にすることを担当する人間はいないじゃないかという分析です。そこで、外来などの診療は続けるものの、手術は一切しないことにしたというわけです。
この決断は、今でこそこんな風にまとめることができますが、当時の私には、大きな思いがあり、簡単ではありませんでした。今では、間違ってはいなかったと総括しています。

 

その後は、自分の能力を見極めながら、社会が求めていることと私たちができることを照らし合わせ、運動器とリハビリテーション分野に絞り、組織の運営をしてきました.得意でもない、同時に、自分自身興味も湧かないという分野を持たなかったことで、質を維持する気持ちを継続することができたと思っています。その意味では、とてもラッキーで、ハッピーな人生と言えるかもしれません。
さて、仕事、家族、お金、趣味など、人生の目的は人によってさまざまです。私の場合、何よりも仕事が優先されたものの、そこで、自分の内面との齟齬がなかったことが、とても助かったと思っています。仕事が趣味とおっしゃる方もいますが、時に、少々無理をして仕事のためにと妥協したり、強引に自分を納得させているような方のお話を聞きます。これでは長続きしないように思うのです。社会的な地位が高いからといって、その方の心の中が満たされているという例ばかりではないということなのでしょう。

 

今、私が運動器の悩みで来院される患者さんと接する中で意識していることは、この心の中の思いに近づきたいということです。運動器に出てきたさまざま悩み、つまり、痛みやしびれ、動きにくさ、使い勝手の悪さなどが、その方の人生のどの部分に影響を与えているかを知りたいと言うことでもあります。そのつながりが見えてくると、解決への方法が説明しやすいし、治療の方向性というか、ゴールとご本人の目標をすり合わせることができるのです。この過程が、ご本人と一緒にクリアできるとかなりの確率で、良い治療効果が期待できると考えています。その反面、症状によって何が困り、どんな影響が出ているのかということを話し合わず、傷んだ関節や筋肉にアプローチするだけでは、その効果もあまりうまくいかないケースが出てくるように思っています。

 

自分の人生で、自分が大切にしているもの、それが損なわれたとき、人は医療機関を受診するのではないか、私はそう仮説を立てて、傷んだ部位の話を伺いながら、ご本人との接点を探るように意識しています。ことに高齢になった方では、自分の存在を時に要らないものと卑下されて、遠慮するように生きている方がおられて、対応に苦慮します。大切なご自分の人生を「もういいの。」と辛そうに振り捨てられると、ケアを提供するすべがなくなってしまうのです。その方の今の状態や環境、そしてこれまでの道がいかに厳しいものであったとしても、その方が生きているという事実は素晴らしいものであると少しでも伝え、大事な生を全うしていただきたいと祈っています。
まだまだ未熟で、深い悲しみを抱えておられる人の前で、自信を持って対応できる実力が得られていないことは自覚しているのですが、それでも、スタッフたちとともに、この目標に、少しでも近づけるよう精進していきたいと思っています。



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