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2018.01.01

認知症を予防する(2018.1)

 

世界中で高齢化が進展しています。それに伴って、医療・介護ニーズが増していきます。ということは、社会保障費用がかさむことになるのです。その状況にどう対応すれば良いか、各国の政府は頭を悩ませています。
65歳以上人口が21%を超えた「超高齢社会」は、世界中で日本とイタリアだけです。そして、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、「65歳以上の5人に1人が認知症になる」という推計も示されています。「認知症」の方が増えることには、有効な治療が見当たらないだけに、苦慮しているのが実情です。
ただ、昨年欧米では相次いで、認知症患者の発病率が減少傾向にあることが報告されています。運動や体重管理、心血管リスク管理など生活習慣病などの危険因子を避け、保護因子を強化すれば、認知機能を守り、認知症への進行を予防することができる可能性が示唆されているのです。つまり、「心臓にいいことは脳にもいい.」というわけです。
さらに、この困った状況に、何とか対策を見つけようと英国のロンドン大学のチームが昨年7月に認知症の発症リスクをその重要度を付けて発表しています。その予防可能な項目を発症のリスク度とともに示しているのです。それは次のようなものです。

1)中年期の聴力低下 9%
2)中等教育の未修了 8%
3)喫煙 5%
4)うつ 4%
5)運動不足 3%
6)社会的孤立 2%
7)高血圧 2%
8)肥満 1%
9)2型糖尿病 1%

一番高いリスクが、耳が遠くなることだというのは、思わぬ結果だと思いました。補聴器など適切な対応を怠らないようにしなければなりません。そして、二番目が教育なんですね。以下の3番目以降の項目は、生活習慣病の予防と同じようですね。
この研究を主導したロンドン大学のジル・リビングストン教授はこの項目を全部足すと、35%になることから、「これら9つの要因を改善すれば、認知症の3分の1を防ぐことができる。遺伝的な要因は7%にすぎなかった。」と語っています。
同時に、教授は「認知予備能」という概念を紹介しています。難しい用語ですが、私なりに解釈すれば、脳細胞の中でいつも使っていて、習慣になったようなこと以外での脳の活動により培われる脳の力と考えれば良いのではないかと思っています。この予備能が高ければ、加齢に伴う認知症を防ぐことができるということです。つまり、脳細胞が数として減少したり、病気やけがでダメージを受けても、残された正常部分がうまく活動して、本来の能力を落とさないように補うことができるはずだというのです。
教育が認知症の発症に関与しているというのは、なぜでしょうか?知識が入って、予防に取り組むことがより積極的になるという効果からという説明がなされています。私はおそらく、好奇心の問題ではないかと思っています。まずは、文字の読み書きが普通にできることが条件になるということです。
それによって、世界が大きく広がります。そして、よほど暮らしに困るという状況でなければ、さまざまな分野への興味が湧き、脳細胞が刺激されると思うのです。毎日、まったく同じ流れの、惰性の日常では味わえない多様な価値観にさらされる日々というところがポイントではないかと思うのです。それが、脳への刺激となり、脳の予備能が上がるのではないかと勝手に推察しています。
したがって、予備能が上がるために教育が大切だといっても、それはいわゆる学歴とは違うと思います。高い専門性を持って、特殊で限られた分野だけに集中していることは、おそらく幅広い刺激とはならず、予備能が上がることにつながらない可能性があります。乱暴に予測すれば、「専門バカ」と陰口をたたかれる学者さんでは、認知症の発症のリスクが高まることになります。

 

では、普段の生活ではどんなことをすれば良いのでしょうか。私は、毎日の繰り返される一つ一つの行動を単純に流さず、意味合いを付けてみるのが良いのではないか思います。
たとえば、食事です。インスタントのカップ麺は確かに便利ですが、それだけでは単なる栄養補給となってしまいます。料理に挑戦するのはいいですが、男性にとってはハードルが高いかもしれません。食べるだけだとしても、見た目やにおいを楽しみつつ味わうことはできます。
耳をすませば、何らかの音が入って来ます。最近では電子音ばかりです。それでも意識すると、木々の葉音、風の音、赤ちゃんの泣き声など、聞こえてきます。それを楽しむのです。
入浴もその良い舞台になります。ただ、暖まって身体を洗って出るというのではなく、バスソルトを使ったり、音楽をかけたり、石けんなども違うものを使えば雰囲気も変わるのではないでしょうか?
駅への道は同じではなく、知らない角を曲がってみるのも小さな冒険になるでしょう。良くないのは、ぼーっとテレビの画面を見ているといった状態です。受け身の情報の受け取りは刺激にならないばかりでなく、脳の活動を抑制する危険性があると指摘されています。その意味では、読書や知的ゲームも、脳の刺激として有効です。ただ、それがストレスになっては何もなりません。あくまで楽しむのです。詩や俳句、短歌など文章を作るのも、予備能を上げるにはとても効果的だといわれています。

 

以前は「脳細胞は20歳を過ぎると一日10万個ずつ死んでいって、再生しないから、弱るだけ」といわれていました。しかし、その後の脳の研究により、脳でも細胞の新生が起こっていることが明らかになってきています。脳を活性化し、予備能を上げれば、認知症の発症や進行が予防できるのです。新薬の開発は待たれますが、自分自身も、積極的に楽しく多方面で脳を使い、刺激を与えて新しい分野を開発し、予備能を上げることが大切ではないかと思っています。



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