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2026.04.01
皆さんはジャズをどう思いますか? 私は大学時代から昔のジャズが好きでよく聴いていました。タバコの煙がもうもうとしたジャズ喫茶にもよく行きました。あくまで主役はアメリカのミュージシャンたちで、時代の流れで少しずつ変わる音の響きを勉強するように聞き入っていたものです。私は1951(S26)年生まれですから、40年代後半からのアドリブ演奏が多く含まれるビバップに取っつきが良かったのでしょう。
1970~80年代には渡辺貞夫や日野皓正といったジャズマンが、テレビCMにも出演して、一般受けも良かったと思います。しかし、その後は、少数のジャズファンは楽しんでいたものの、あくまでジャズは一般的大衆的なものではなく、一部のファンのための特殊な世界になっていたように思います。
ところが、最近、1960〜80年代の「ジャパニーズ・ジャズ」が、欧米を中心に世界中で多くのリスナーを惹きつけているというのです。イギリスの日刊誌「ガーディアン」で、記者のDean Van Nguyenは「Society was volatile. That spirit was in our music: how Japan created its own jazz(社会は不安定だった。その精神は私たちの音楽にありました。日本が自らのジャズを創り出した方法)」という記事を2022年1月12日に掲載しています。日本のジャズシーンでの先駆者たちを紹介し、その彼らの音源の復刻版を手がけるイギリス人キュレーターへのインタビューを交え、日本のジャズの歴史と魅力を解説しているのです。
この記事の中でも紹介されているのが、ピアニストの福居良です。実は彼は2016年に悪性リンパ腫で亡くなっています。私は2000年頃に知り合い、親交が始まりました。そのきっかけとなったのは野球です。彼はピアニストなのに、野球が好きで、演奏に向けて手や指は大丈夫かと心配になるくらい真面目に取り組んでいました。旭川のスタルヒン球場に試合のために遠征をしたりしていました。一方、私はスポーツ医学を専攻していて、たまたま在阪球団の一つである当時の阪急のヘッドトレーナーである松元さんと知り合い、2月のキャンプに出かけたりしていました。その松元さんが試合で札幌を訪問したときに、すすきのにある良さん(私は福居良のことをそう呼んでいます。ご了承ください。)が奥さんの康子さんと経営するジャズバー「Slow Boatスローボート」でライブを聴いてすっかり気に入り、私に「札幌に行ったら.絶対寄ったらええという店教えたるわ。」とSlow Boatを教えてくれました。それで実際に、お店を訪れ、また、良さんが演奏で関西に出かけてきたときに会ったりして、どんどん親しくなっていきました。
私がスポーツ医学で、野球による身体の不調について勉強しており、実際プロ野球選手の身体にも触れていることを聞いて、彼は自身の身体について、そして、投球動作のことについて、真剣に質問をしてくるので、私も一生懸命話したことも思い出します。
今回、こんな風に良さん 福居良のことを書き始めたのは、理由があります。彼の命日が3月15日で、ちょうど亡くなって10年になるのです。この10年間、先頭に立ってSlow Boatを運営してきた奥さんの康子さんを囲んで、友人たちが集まる会を企画したというので、私も大阪から参加させてもらいました。
驚いたことに、その会には、イギリスから、そして、韓国からも良さんのファンという方が来ておられました。この会から帰ったばかりでその印象が強いので、皆さんにご紹介しようと思い立ったのです。
彼の生い立ちですが、彼は1948(S23)年生まれで、私より3つ年上です。千歳や苫小牧から30kmほど東にある沙流郡平取町に生まれています。父親の福居天童氏は民謡演奏家で全盲の多才な旅芸人でした。18歳で父親の仕事を手伝うためにアコーディオンを演奏するようになり、その後、1970年22歳で父親の勧めでピアノを学ぶようになります。最初は独学だったのですが、東京へ移り、テナーサックス奏者の松本英彦のバンドへ加入し、またバークレーなどで学んで帰国した渡辺貞夫の講習などにも参加してジャズピアニストとしての才能を磨いていきます。1975年27歳で札幌に戻り、自分のトリオを結成し1976年にファーストアルバム『Scenery』を出すのです。
2015年、このレコードがYouTubeにアップロードされました。これが全世界で話題沸騰し、この動画は1200万回以上の再生回数を誇るまでに広まっています。Slow Boatには、この曲を聴いてファンになった多くの外国人の方々が訪れるようになったのです。そして、彼は1977年には2枚目のアルバム、『Mellow Dream』を出しています。
私はこのアルバムタイトルにもなっているMellow Dreamを聞くと、涙があふれてきます。先日のみんなが集まった会でもお店の女将末岡えつこさんが演奏してくれて、感激しました。ライブでは、女将のピアノとともに、ベース秋田 祐二、そして、ドラムには江藤良人、ボーカルの玉川健一郎という豪華メンバーでの演奏を聴くこともできました。
良さんが空から見ていると身体で感じる時間でした。苦労をしながら10年間お店を守り続けてきた康子さんの背中をさすり、貴重な時間を過ごす喜びとともに、自分自身の残された時間の過ごし方を考える機会にもなったと思っています。
今、海外からの熱気にあおられる形で、音源の復刻が進んでいます。もし興味がおありになりましたら、福居良の音を是非聞いてみて欲しいと願っています。個人的な話しが中心の話題で申し訳ありません。よろしくお願いします。