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2011.07.01

日本の医療の特徴とこれからの課題(2011-7)

皆さん、日本の医療や医療体制について、どんな風に評価されていますか?
たとえば、医療費です。日本は国として、医療にお金を使っている方だと思いますか?それとも、あまり使っていない方でしょうか?
国ごとにどれくらい医療費に使っているかの水準を比較するのに、国内の経済活動によって生産されたものやサービスなどの総額を示す「国内総生産(GDP)」にたいする医療費の比率という指標がよく用いられます。

 

OECDは加盟国の経済活動や社会システムを比較するため、さまざまなデータを定期的に公表していますが、その中には医療関係のデータも含まれています。一番新しい「OECD HEALTH DATA 2010」によると、わが国のGDP比医療費は8.1%で、31カ国の加盟国のうち、21位となっています。ちなみに、OECD諸国の平均は9.0%で、約1%の差があります。日本のGDPはおおよそ500兆円ですから、1%といっても5兆円の差があるのです。民主党がマニフェストで掲げたように、日本の医療費をOECD並に上げるとなると5兆円を埋めるのは容易なことではありません。また、一人当たり一年間の医療費をドルに換算すると2729ドルで、20位です。OECD加盟国の平均はそれぞれ、9.0%、3060ドルですから、かなりの開きがあるということです。つまり、日本は医療にお金を使っていない国となります。
でも、きっと、受診したときに窓口で支払っている感覚からすれば、決して安くないのになぁと思われるかもしれません。確かに窓口での一部負担金は、現在、義務教育就学前と70歳以上以外の年代はすべて3割となっています。イギリス、カナダ、イタリアなど公的な医療保険制度を持つ国では、薬剤の一部負担はあるものの負担ゼロと設定されています。したがって、窓口で支払っている感覚から、国全体の医療費も高いように錯覚している方が多いのですが、決してそうではないのです。

 

一方、国が医療費を捻出するための財源はどうでしょう?国民が医療のためにどれくらい支出しているかということです。租税と社会保険料の支払いを足した総額をまたGDPに対する比率で見たものは「国民負担率」と呼ばれて、国際比較する資料に使われます。日本は28.1%(2009年)で、アメリカや韓国とともに、低い水準であることが示されています。先ほどのように医療費の負担をゼロにするためには40%前後の負担をしていることになります。つまり、日本では、国民にあまり負担させることなく、医療の現場では良い成果を上げてきたことになります。
日本の高齢化率は2008年22%となり、世界一です。そして、高齢者の一人当たり医療費は他の世代より高く付くことからすれば、医療費を抑えるにも限界が来ていると予測されます。

 

では、医師や看護師数はどうでしょう?人口千人当たりの医師数はドイツ、イタリア、フランスでは3人を超えていますが、日本では2人で少ないことが知られています。さらに、医療施設で100床当たりの医師数や看護指数は飛び抜けて少ない数字になっています。一方で、人口当たりの病床数は飛び抜けて多く、入院期間も長いのが特徴です。
まとめると、医療機関が運営する病床は多く、人は少なく、長く入院しているのが特徴となります。外来診療では、国民一人当たりの年間の受診回数が非常に多いのも特徴です。

 

こうした特徴を持つ日本の医療が、綻びをあまり見せることなく一定の成果を上げてきたのは、現場の医療者の踏ん張りであることを否定する意見はありません。小泉内閣が財政再建を優先させ、医療費の削減を推し進めたことが、この頑張りを土俵際に追い詰めました。
今後、これまでと同等の質を求めるとすれば、医療費総額を増やすしかないと私は思っています。しかし、それは、国民に負担を強いることでもあります。皆さんは今回私がまとめた情報から、日本はどのような医療制度とすべきだと思いますか?
1)これまでと同様に、いつでも一定のレベルの診療を受けたいので、負担は受け入れる。(税か、保険料か、両方か)
2)負担をすることはできないので、診療のレベルが下がるのはやむを得ない
3)少しの負担なら受け入れるから、どの程度の医療制度となるか教えて欲しい
基本的には、お金がなければ、質が落ちるということです。質には、いつでも受診できることや、検査が早めに受けられること、手術待ちが長くないこと、医師の技術が高いことなどが含まれます。サッチャーさんが行ったイギリスの医療改革では、お金がないために、かかりつけ医から紹介をされても、専門医の受診が半年以上先になったり、MRIを摂るのに4ヶ月も待たされたり、ガンと診断されたのに、部屋がなかったり麻酔医がいないために手術を受けるまで半年待つことになったりしました。医師たちもイギリスからどんどん脱出したと聞いています。一旦こんな状況になると、再興は容易ではありません。
ともかく、少子高齢化が急速に進み、右肩上がりの経済成長も望めない成熟社会で、どのようなデザインを持つか、国民が関心を持って議論をすべきではないかと思っています。



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