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2014.11.01

医療・介護制度がどう変わるか?(2014-11)

 この原稿を書いているのは11月の下旬です。21日に安倍総理の決断により、衆議院が解散し、選挙となりました。この選挙は、経済・財政の再建を第一に掲げる安倍内閣にとって、民主党から政権を奪回してから打ち出してきた経済政策「アベノミクス」の成果を問うものだと首相自身が語っています。
4月に消費税の税率が予定通り8%へ引き上げられましたが、その後消費が冷え込み、4-6月期のGDP速報値がマイナスとなりました。それは織り込み済みだったのですが、今回7-9月期のGDP速報値まで前期比マイナス0.4%となり、年率換算にするとマイナス1.6%という結果が17日に発表されたのです。この状況で、法律に決められている2015年10月の消費税の税率10%への引き上げは無理と判断し、それを延期することから、その是非を選挙で国民に問うというのが、正式な理由とされています。
もちろん、政治の世界ですから、9月3日の内閣改造で起用された閣僚、ことに目玉ともされた女性閣僚から不祥事が次々と発覚したことや野党との関係で、選挙をするには、むしろタイミングが良いという時期の選択であったという声も聞かれます。

 

財務省のホームページでは、消費税について、こう書かれています。
「今後、少子高齢化により、現役世代が急なスピードで減っていく一方で、高齢者は増えていきます。社会保険料など、現役世代の負担が既に年々高まりつつある中で、社会保障財源のために所得税や法人税の引上げを行えば、一層現役世代に負担が集中することとなります。特定の者に負担が集中せず、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、高齢化社会における社会保障の財源にふさわしいと考えられます。」
 つまり、消費税は社会保障に用いられる財源なのです。実際、厚生労働省の平成26年度の予算編成において、消費増税分5兆円の内訳に、1)基礎年金国庫負担割合2分の1(平成24年度・25年度の基礎年金国庫負担割合2分の1の差額に係る費用を含む) 2.9兆円、2)社会保障の充実(子ども・子育て支援の充実、医療・介護の充実、年金制度の改善) 0.5兆円、3)消費税率引上げに伴う社会保障4経費の増(診療報酬、介護報酬、子育て支援等についての物価上昇に伴う増) 0.2兆円、4)後代への負担のつけ回しの軽減(高齢化等に伴う自然増を含む安定財源が確保できていない既存の社会保障費) 1.3兆円が当てられることになっています。
 しかし、引き上げが延期されることになり、医療界では失望の声が聞かれるのです。政府の方針として「子供・子育て支援新制度」は予定通り来年4月からスタートされることは決めていますが、低年金者への給付支援などは財源確保が困難で見送られる見通しです。また、医療介護の分野でも市町村の国民健康保険への財政支援や低所得者の介護保険料軽減策は、優先順位を付けて行うという方針の下、どうなるか実施が危ぶまれることになりました。
また、この解散総選挙の決断により、別の動きもありました。11月13日に予定されていた厚生労働省の医療介護改革推進本部の「医療保険制度改革試案」の公表が先送りされたのです。この改革試案には、後期高齢者医療制度の特例措置の見直しなど高齢者に負担増を求める内容が盛り込まれていました。選挙の直前に高齢者の負担を上げる政策が公表されることは彼らの票が他の政党に流れることを与党としては危惧したからではないかと囁かれています。

 

 後期高齢者医療制度は、小泉内閣において導入された制度で、75歳になるとすべての人が新制度に加入し、税金5割、現役世代の健康保険からの支援金4割、高齢者本人の保険料1割で賄う仕組みです。ところが、導入に際しての説明が不足しているとか、そもそも「後期高齢者」という名称が高齢者の気持ちを斟酌していないと批判が噴出します。
その批判をかわすため、保険料の軽減措置を次々と打ち出し、持続可能な社会保障制度を作るためという目的はなし崩しになってしまいます。2008年以降、この特例による保険料減免には当然、税金が投入されています。
2008年4月から70歳以上75歳未満の高齢者(現役並み所得者は除く)は8割の給付で、2割を自己負担することになっていましたが、選挙結果が良くなかったこともあり、実施は凍結され、自己負担は1割に据え置き、残りの1割分を国庫で賄ってきました。今年になり制度を決めたとおりに運用しようと、2014年4月1日以降に70歳に達する人(昭和19年4月2日以降生まれ)については、70歳になった月の翌月以後の診療分から自己負担が2割となることが決まっています。
 公表されようとしていた「医療保険制度改革試案」では、医療制度改革を推進させる動きから、自己負担と同様に、優遇されていた保険料の特例をなくし、本来のものに見直すことが予定されていたのです。それが見送られました。
大きな需要の増加が見込まれる高齢社会で、財源を確保すること、そして、制度の中で、国民の負担とその給付のあり方を見直し、世代間・世代内の公平を期すことは、避けることのできない問題です。財源確保の手段が消費税でした。

 

 それにしても、消費税が上がることは一人の消費者として、また、事業の経営責任を持つ管理者、ことに医療機関の経営者にとっては大きな影響を持ちます。医療では、消費税は徴収されていませんね。しかし、薬や医療材料など購入に際しては当然消費税を支払っています。つまり、医療機関にとっては、消費税は損税となっているのです。厚労省は、その分は診療報酬に含まれていると主張しますが、税率が上がればその分影響が大きくなることは間違いありません。
 しかし立場を変えて、社会保障の担い手の一人としては、この増税には反対できません。先ほど書きましたように、この財源で社会保障が賄われる仕組みになっていたからです。
 テレビの報道で、消費増税について町の声を拾ってみましたなどという場面がよくありますが、そんなとき、すでに年金を受給している人が、出てくると、あなた方は恵まれていますねと呟いてしまいます。問題は、これからなのです。2025年問題ですね。

 

 日本の人口は2005年をピークに減少し続けています。その中で唯一人口が増加する年代があります。それが75歳以上のグループです。その増え続ける人たちの社会保障を減り続ける現役世代が支えなければなりません。今の制度のままでは、とうてい維持できないことが計算上、明らかとなっており、制度改革が求められているのです。したがって、改革は遅すぎるくらいなのですが…。
 全体を眺めることはなかなかできることではありません。そして、自分が一番大切で、制度の変化については、自分に関する損得を基準にその是非を判断するのが常だと思います。しかし、この大きな変化のある時代において、あまりに利己的に自分のことだけを考えるやり方では、将来を設計することはできないと思うのです。たとえば、自分はできるだけ多くの年金が欲しいと思う。それは当然でしょう。しかし、そこに財源が使われたら、子育て支援対策の財源がなくなるとしたら、そして、子供たちの教育環境の充実にはお金が使えないとしたら、それでもたくさんお年金をよこせと要求できるでしょうか?障害者の対策も十分とは言えません。その財源はどこから持ってくるのでしょうか?そう考えると消費税の増税は先送りして欲しくないと思うのです。
その一方で経済・財政の状況も気になります。景気が良くないと世の中の元気が感じられなくなります。閉塞感が社会を覆い、明るい話題のないくらい世相になるでしょう。これも困りますし、国際的に、国と地方の借金がGDPの2倍以上になっている現実では、国の信用にも関わりますし、国債をこれ以上発行することがいい方法とは思えません。

 

このように立場を変えて、この事態を冷静に眺めてくると、自分だけのこと損得で意見を述べることでよいのか、分からなくなってきます。
私は個人的には、自分が生まれ育ったこの日本という国、すばらしい文化と自然に恵まれた美しいふるさとにおいては、社会保障は公的に保障される制度をこれからも存続させるべきだと考えています。アメリカのように、お金がある人だけが良い医療を受けることができるというのではなく、国民全体で皆保険制度を守り、一定のレベルの利用を誰でも受けることができる社会を維持させなければならないと考えています。そのためには、多少負担が増えることがあっても容認せざるを得ないという意見を持っています。もちろん、所得に応じた配慮が必要なことは言うまでもありません。
さて、皆さんはこの難しい問題をどのようにお考えになりますか?政治に興味がない方でも、社会保障が政治に左右されることを念頭に、選挙とその結果を見守る必要があるのではないかと思っています。
この原稿が掲載される頃、すでに結果が出ていることでしょう。私たちの次の世代がどのような国に住み、育っていくことになるのか、未来を決める時期にさしかかっていることを強く認識するべきではないかと思っています。



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