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2014.01.01
今回はまったく個人的なお話です。今から10年ほど前まで、私の入浴は「カラスの行水」というもので、ゆっくりと湯船に浸かるということがありませんでした。家族で温泉に行っても、食事の前、寝る前、早朝と何度もお風呂に向かう嫁さんの行動が不思議で仕方ない位でした。それが、寒い時期に九州に行って以来、大の温泉好きに変わってしまいました。
今では、普段でも出張先でも時間があると、温泉を探し、タオル一本持って出かけて、チャプンと湯に浸かるようになりました。ことに、スーパー銭湯のようにいくつも浴槽があり設備の整った施設ではなく、地元の人たちが日常的に使っておられる町の銭湯で、掛け流しの温泉という状況が何よりも楽しいと思えるようになりました。
ところで、日本全国で泉源の数や湧出量が一番多いのはどこだかご存じですか?温泉地の数となると面積の広い北海道や長野が多いのですが、実は「大分県」が一番なんですね。そこで、大分県では「おんせん県おおいた」というキャンペーンを行い観光客の誘致を進めています。確かに大分では、ご存じの「別府温泉」「湯布院温泉」という有名な温泉以外にも、塚原温泉、湯平温泉、筋湯温泉、長湯温泉、赤川温泉など数多くの温泉があります。
私が、大分にはまったのは、実は「ふぐ」でした。大阪で食べるふぐも美味しいのですが、学会で訪れた大分で肝をポン酢に溶いて刺身を食べたときの衝撃で、以来、毎年冬に行くようになりました。寒い時期ですから、それで暖まるために温泉に入る機会が多くなり、いつの間にか、女房よりも温泉の好きな人になってしまったというわけです。
ことに私が気に入っているのは、贅沢な施設の整った温泉ではありません。「銭湯」とは少しイメージの違う「共同湯」と呼ばれるお風呂を好んで使わせてもらっています。浴槽はあまり大きくなくて、せいぜい6人くらいでいっぱいになり、カランはない場合もあり、あっても二つくらい。もちろん、据え置きの石けんやシャンプーなどはありません。脱衣する場所と浴室には境がない場合すらあり、料金はせいぜい300円以内といった特徴があります。たとえば、別府の共同湯では組合員の人たちは月極の支払いを済ませており、私のような外部の人間は、おいてある空き缶などに100円を入れて、利用させていただく形です。
それが本当の贅沢だと最近では思うようになりました。一切の加水や加熱、また塩素などを加えることなく、泉源からのお湯が常時流れ出し、古びた浴槽からあふれ出ているのです。身体を洗うことというより、ゆっくりそのお湯を楽しむことが目的です。しばらく浸かると外の空気に触れたり、冷たい水をかぶったりして身体を冷やし、再び浴槽に浸かります。たとえ外は木枯らしの吹く寒い季節でも、こうした温めた身体はいつまでもぽかぽかと芯からの暖かさが続きます。そして、夜はぐっすりと眠れるのです。
豪華な温泉宿の一泊も、値打ちのある旅の一つでしょうが、地元の方が普段使っておられる素朴な施設にお邪魔するのも、なかなか得がたい旅の思い出になると思います。機会があれば是非、私のお勧め「おんせん県おおいた」へお出かけください。