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2015.12.01

言葉の力(2015-12)

 

 私自身が、老いてきたためかもしれませんが、最近、公の場で語られる言葉が気になって仕方ありません。マスメディアから流れてくるVIPの人たちや有名人、芸能人たちの言葉も気になりますが、ことに、国会などでの政治家の発言では、内容よりも表現が嫌で、聞くのを中断することがあるくらいです。私がどの部分が受け入れられない気分になるのか、自分自身で分析をしてみました。

一つは、大げさな言い回しです。「心より」という修飾句を多発する議員さんの演説は、「命をかけて」「全身全霊で」活動すると続き、「国民すべての方の幸せ」を祈ってというまとめで終わろうとしていました。どうにも真実からかけ離れた表現に思われてなりません。嘘くさくて、というより、嘘そのものと言った方がいいのかもしれません。すでに、何度も口から出していて習慣になっているから、その嘘は別に平気なんでしょうね。あまりに多用されるために、これに類した用い方をされる決意表明などは、かえって受け止める側にとって、重みのない軽い表現に受け止められるようになってしまった感すらあるように思います。

これは政治の世界だけの話ではありません。日常生活でも、ビジネスの場面でも大げさな表現にはよく遭遇します。「世界で初めて」「今しかありませんよ」「残り5つだけです。お急ぎください」「最初で最後のチャンスです」「この機会を逃すと…」「あなたは幸運な方です」などなど、売り場のパネルやインターネットのサイトでは、こんな言葉であふれています。実態を静かに観察し、冷静に判断するいとまを与えず、気分を高揚させて財布のひもを緩めようと言うことなのでしょう。

二つ目は、曖昧な言い方です。いったい、本当は何が言いたいのか、最後まで聞いてもよく分からないことがあります。代表的なのは、以前から、指摘されている官僚言葉です。「善処します」「前向きに検討します」「検討するよう考えます」といった言葉は、言葉通りに取れば、前進するようになりますが、肯定ではなく否定の言葉だと聞いてびっくりしたことがありました。

一般社会ではあまり用いられないのですが、政治の世界では「遺憾」という言葉がよく出てきます。要するに「残念である」ということを難しく言っているのだと思っていましたが、これは相手への怒りの表現なのだそうです。裏を考えて対話が成り立つのかと、私のような単純人間は不思議な気がします。でも、何度もそういう経験をしたために、今では、通訳してもらうことなしに、彼らの言葉の後ろにある真意がある程度、分かるようになって来ました。ただ、それがいいことなのかどうかは分かりません。

三つ目は、確かめる言葉の多用です。たとえば、「しっかりと」「きちんと」「きっちり」などという表現がしばしば国会答弁などで用いられることにお気づきでしょうか。その割に、具体的な手順が示されなかったりします。誠実に対応するという風に聞き手をごまかすには有効な表現ですが、その中身を検証する必要がある気がします。ひょっとすると、「しっかりしていない」し、「きちんとできていない」し、「きっちり管理していない」からこそ、逆に、これらの表現を用いている可能性もあるように思います。

言葉は時代とともに変化します。私が感じているこうした違和感も、上の世代は私たちの言葉に感じていたのかもしれません。しかし、言葉が軽くなることは、大切なものを失う危険も孕んでいるようにも思うのです。日本には「言霊」という考え方があります。言葉には霊的な力が宿っていると信じられていたのです。口から発せられた言葉自体に、現実を変えるような何らかの影響力があるということです。縁起の良い表現は良いことにつながり、悪い言葉、不吉な言葉は凶事につながる可能性があると戒められました。今でも、結婚式などでは、使ってはならない「忌み言葉」がありますね。それも言霊の考え方なのでしょう。

こうした考え方は、日本だけのものではないようですが、お宮参りではみんな自然に手を叩き(拍手)、お辞儀をします。その柏手の音は、場を清める働きがあるということで、世界中で行われるお祭りなどでの太鼓や笛や鐘の音は、同じ意図で広まったのだと言われているそうです。

ともかく、社会の流れに逆らうわけにはいきませんが、私自身は言葉を大切にして、言葉が持つ力を信じたいと思っています。最後に、私が最近感動を覚えた言葉による詩をご紹介したいと思います。愛知県乙川東小学校のFくんの「あいさつ」という詩です。

 

「あいさつ」

「おはよう」というと目が覚める

「いただきます」というとお腹がすく

「いってきます」というと元気にいける

「ありがとう」というと気持ちがいい

「ごめんなさい」というとほっとする

「おやすみなさい」というといい夢みられる

あいさつってうれしいな

 

 

 



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