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2015.08.01

ロシアへの出張で感じたこと(2015-8)

 

 年のせいでしょうか、日本という国、その文化や日本人の特質などということをよく考えるようになってきました。ことに、海外への出張をすると、自分の常識が通用しないことがあり、いつの間にか自分が持っている物事の基準や尺度は、決してグローバルなものではないことを痛感させられますし、それは翻って言えば、自分が日本人であり、日本に住んでいて染み付いている事柄を知る良い機会にもなっていることになります。職場のみんなには迷惑をかけるのですが、診療や会議など、協力をいただいて、時々出張に出かけるのを許してもらっています。

 今回は、ロシアへの出張での体験です。水泳の世界選手権がロシアのカザンで開催されたからです。もともと、シドニー五輪の時の代表チームの選手が、なみはやドームで合宿中に腰を痛めて診療することがあって以来、井村雅代コーチと親しくなり、彼女の「井村シンクロクラブ」の選手たちのケアや、彼女が指導する選手の管理に関わってきました。

 彼女がアテネ五輪の後、日本の代表チームを去り、北京五輪では中国チームを指導して、彼らに初めてのメダルをもたらしたときも、数回、北京や上海へお邪魔して、選手の管理をお手伝いしたりしてきました。

今回は、東京2020が決まったこともあり、10年ぶりに日本チームを率いることになられました。昨年の秋のカナダモントリオールでのワールドカップで、久しぶりのメダルを持ち帰った日本チームですが、その時には、強豪のロシアやスペインは参加していませんでしたから、来年のリオデジャネイロでのオリンピックで久しぶりのメダル奪還に向けて、きわめて重要な試金石となる大会です。

開催地のカザンはモスクワから東へ800km離れた人口100万人あまりの町で、ロシア連邦タタールスタン共和国の首都です。日本人にとって馴染みのある土地ではありませんが、ヴォルガ川の流域です。ヴォルガ川は「ヴォルガの舟歌」は誰でも知っているように、ロシア人にとって思い入れのある川のようです。この川のことを調べてみて、日本との違いが実感できました。というのも、ヴォルガ川はモスクワとサンクトペテルブルクの中間にあるヴァルダイ丘陵に始まり、東南に流れてカスピ海に流れ込みます。全長は3700kmです。日本の北の端択捉島から南の端の与那国島まで3300kmほどですから、この川の長さが分かります。

ちなみに、世界の川の長さを見ると、最長のナイル川の6650 kmから、アマゾン川 6400 km、以下、 長江(揚子江)、ミシシッピ川などと続き、ヴォルガ川はこの長さでも10位にも入っていないのです。日本で一番長い信濃川が367 kmですから、ため息が出るほどの違いがあります。日本は狭い上に、中央に背骨のように山脈が通り、川はその勾配で海に流れ込むという特性があります。そのため、すべての川は短くて、流れが急になります。大雨があると氾濫しやすいのは、こうした特徴があるからなんですね。

ともかく、このように、川一つとっても、日本の常識が世界には通用しないことが分かります。昔、大陸に住む中国人が瀬戸内海を航行して、「日本にも大きな川があるね」といったという話は、あながち作り話ではないような気がします。

さて、カザンでは、サッカーやバレーボールのプロチームがあり、女子バレーボールクラブのディナモ・カザンには、一時(2011-12)、日本から栗原恵選手が所属し、活躍していました。そして、この町は2018 FIFAワールドカップの開催都市にもなっており、今回のような世界大会を誘致して知名度が上がりつつあることを知りました。

この町に行くには、日本からの直行便はありません。どこかで乗り継がねばなりませんが、私は関空からトルコのイスタンブールまで飛び、そこからカザンへ行く方法を選択しました。夜10時半に関空を飛び立ったトルコ航空の便は早朝にイスタンブールに到着します。しかし、カザンへの出発はその日の夜になります。一日をイスタンブールで過ごさねばなりません。待ち時間と考えると大変なので、一日をイスタンブールで過ごすことができると前向きに考えることにしました。

トルコ航空では、こうした乗り継ぎ時間の長い顧客に対して「Tour Istanbul」(http://www.turkishairlines.com/en-jp/)というサービスがあることを知り、早速利用することにしました。このサービスでは、トルコ航空を利用してイスタンブールを経由してどこかに飛び立つ顧客に、4時間から9時間までの3種類の食事付きの市内観光を無料で提供しているのです。これは、実に良い試みだと思いました。9時に集合で、バスに案内され、市内に向かいます。英語ではありますが、ガイドが付いて、説明をしてくれるのです。

 ブルーモスクと呼ばれる美しいスルタンアフメットモスクから、向かい側のアヤソフィア博物館、トプカプ宮殿に、荘厳な地下宮殿と見所満載です。

 イスタンブールは、アジアとヨーロッパのちょうど境目という特異な地理環境から、ローマ帝国、東ローマ帝国、オスマン帝国と3つの世界帝国の首都となった珍しい都市です。現在はイスラム圏に属していますが、その地勢上の特質から、さまざまな文化を受け入れてきました。そして、近代においては空港名ともなっているムスタファ・ケマル(アタテュルク)が中心となり、祖国回復運動を展開し、「トルコ共和国」が樹立されました。彼は初代大統領となり、政教分離、ローマ字採用、女性参政権など近代国家の建設をいち早く進めたのです。

 ほんのわずかな時間でも、悠久の歴史を歩みに触れることができました。そして、あまり利口になったとは思えない人間の同じような営みにため息を漏らしつつ、民族衣装をまとい、顔まで覆って肌を露出させないイスラムの女性たちや、世界どこでも同じの子供たちの飽くなき好奇心とエネルギー、そして、すてきな笑顔や母親への信頼などに心を和ませました。

朝食と昼食が付いていて、定食のような感じで用意されたものを食べました。朝は、チーズと野菜とゆで卵がのったプレートにパンや紅茶です。このチーズとオリーブは昼食にも付いていたので、きっと、食事の時の定番なのだろうと想像しました。昼食は、スープとサラダの後のメインコースをチキン、野菜(ベジタリアン用)、そして、お肉のケバブのうちから選択する仕組みでした。ロシア人、イギリス人、デンマーク人、ドイツ人、韓国人という国際色豊かなテーブルで、どこから来てどこに行くのかという質問から、会話が弾みます。

 日本人にとって、この食事は大丈夫かという質問がありました。今では何でもあるし、私は個人的には日本食が好きだけど、若い世代は、ハンバーガーやピザ、タコスを食べているというと、日本もそうなのかという不思議な反応でした。寿司の店はあるけど、きっと、日本での寿司とは違うといつも思いながら食べているというデンマークの彼の表現に、中華料理もそうだし、その国風にアレンジされるのは当然だという風にみんな頷いていました。

 楽しい一日を終えて、カザンに深夜に到着。翌日から、シンクロの試合に出かけます。

 どんな結果が待っているのか、リオ五輪のメダル奪還への道筋がはっきり見えるようなら良いのだがと、祈る気持ちです。

 この会報が出る頃には、もちろん結果は出ていると思います。たとえ、良い結果ではなくても一歩でも前進するための彼らへのサポートをこれからも継続しようと思っています。

 

 

 



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