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 靭帯が切れたら

強く足を捻ってしまって、整形外科に行きました。普通のレントゲン検査で骨折はなくても安心できないと説明を受けます。レントゲン写真には写らない関節を安定させるための「靱帯」が傷んでいる可能性があるということで、さらに、追加の検査を受けます。わざと、ケガしたときのように関節を捻ってレントゲンを映す「ストレス撮影」、そして、造影剤を入れて映す「関節造影」です。その結果「靱帯が切れている」という診断になります。では、どのような治療を行うのでしょうか?
 治療方法としては、そのまま、簡単に湿布程度の処置で済ますというものから、ギプスを巻いて靱帯のくっつきを待つ方法、そして、積極的に手術して切れた靱帯を縫いつける方法までいろいろです。靱帯の損傷の程度によって、これらの方法を使い分けるのが一般的です。そのためにも、先ほどの「ストレス撮影」や「関節造影」で、靱帯の傷み具合を調べるわけです。ほんの少しの損傷の場合は、湿布と包帯でも機能障害を残さずに治るでしょう。しかし、靱帯の一部に傷がつくような程度となると、ギプスで一時期、しっかりと固定することが必要となります。完全に切れてしまった場合は、どのような処置が勧められるでしょうか?
 実は、足首の場合、靱帯が完全に切れてしまっていても、普段の生活で歩くことにはさして支障はありません。ただ、関節を安定させているスジである靱帯が本来の働きを失っているわけですから、関節は不安定となっています。踵の高い靴をはいていたり、砂利道を歩くときなど、簡単に捻挫しやすくなってしまいます。つまり、大げさに言えば、「ぐらぐらの関節」になってしまうのです。そんなに激しい活動をする年代でもなく、また、動き回るような生活を送っておられない場合、こうした関節の不安定はそれほど生活に影響を与えないことが予測されます。しかし、若いスポーツ選手で、ことに、専門種目がバスケットボールやサッカー、バレーボールのように、相手やボールに合わせて、横に素早く動くことが求められるような場合、関節がしっかりしていないと、すぐに捻れてしまい、思い切ったプレーができないことになってしまいます。
 完全に切れた靱帯を修復するために、しばらくギプスを巻くと、巻かないよりもはるかに、関節の安定性が得られることになります。しかし、先ほどのような足の使い方をする選手の場合、それでも、ケガする前の足の状態とは違うと訴えることがあります。そこで、確実に安定性を保障するには、手術によって靱帯を縫合する方法をお勧めすることになるのです。
 このように、どの治療方法を選ぶかは、損傷の程度だけではなく、その方の望む活動レベルに合わせた配慮が必要となってきます。さらに、スポーツ選手の場合、チームの中での立場や、試合日程、学年、将来の計画など、様々な要因を考え合わせて、最終的な結論を出すことになります。
 こんな例もありました。高校3年生のサッカー選手です。あと、2週間で、高校時代最後の試合があるという時期に、練習で強く足首を捻ってしまいます。検査の結果、靱帯の完全断裂です。彼は優秀な選手で、Jリーグからも声がかかっています。卒業しても、サッカーは続けるつもりです。ご両親も交えて、どのような処置をするか相談です。「目の前の試合には出たい。しかし、それが、将来の自分の選手としてのプレーに影響するなら困る」というのが彼の意見です。私としてはできるだけ、彼の意向に合わせてやりたいと考えました。痛んだ足首でも、きちんとテーピングをすると、6,7割のプレーは可能です。ただし、もちろん、多少の痛みは仕方ありません。その上で、ゲームが終わってから、靱帯の修理をすることもできると説明しました。試合に向けて、一日ごとに動く範囲を増やしていきました。腫れや痛みを取るために、アイシングは徹底的に行い、薬も飲んでもらいました。何とか試合に出場できました。プレーの内容には不満足のようでしたが、出場できたことは、本人としては、納得してくれたようです。そして、その後、これからさらに競技を続けるならばということで、手術を行いました。今では、元気に、Jリーガーを目指して練習に励んでいます。
 手術は、要するに、切れてしまった靱帯を縫いつけるものですから、それほど難しいものではありません。麻酔をする関係で、一日は入院が要りますが、それ以上は不要です。10日ほどはギプス固定をしますが、はずしたあとからリハビリテーションを行います。このリハビリテーションは、何も手術を行った例だけにするものではありません。すべてのケガのあとで必要となるものです。次回は、このリハビリテーションについて、お話しします。

次回>ケガが吹っ切れた 〜関節の機能を元に戻す〜
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