ケガが吹っ切れた 〜関節の機能を元に戻す〜

足首の捻挫について、整形外科医からの見方と治療方法についてお話してきました。ギプスによる固定を行ったとしても、手術という方法を選んだとしても、一定期間使わなかった関節は、必ず、元の機能を失っています。元の機能というのは、四つの条件があります。1)普通に動くこと、2)力が入ること、3)自分が使いたいように使えること、4)痛くないことです。
 経験された方もおられると思いますが、たとえば、太股から足先までギプスをしばらくしたとします。はずしてみると、足の太さが全く変わってしまっていてびっくりします。すっかり、細くなってしまうのです。中には、「やったーぁ!」なんて喜ぶ方もおられますが、反対の足は元のままですから、手放しで喜ぶわけにはいかないでしょう。これは、使わなかったために、筋肉が落ちたのです。筋肉の容積が減ったのですね。おそらく、脂肪の方は、あまり変わらないでしょうから、足としては、弱いものとなり、問題です。激しいスポーツ活動をする選手にとっては致命的とも言えます。それは高齢者でも同じことです。わずか2週間ほど、足を使わなかっただけで、自分で自分の身体を支えることすらできない例もあります。これを取り戻す方法は、鍛えることしかありません。
 また、しばらく動かさないでいると、関節は固まってしまいます。動かそうとしてもうまく動かないのです。無理に動かすと痛みが出ます。これは、関節の周囲の組織が縮まったり、ひっついたりしたために起こる現象です。これを元に戻すのも、少しずつ、暖めたりして動きやすい環境を作りながら、動かしていくしかありません。動かしていくと、多少、熱を持ったりします。その時は、冷やすことをお勧めしています。
 関節の周囲の筋肉などが固まっているのは、暖めた方が動かしやすいし、一方、動かして熱を持てば、冷やす方が、後が楽になるというわけです。これは、スポーツ活動をする時の注意とよく似ています。準備運動を「ウォームアップ」といいますね。暖めてから活動しようということです。運動が済むと整理運動です。「クールダウン」といいます。高校野球の投手たちも試合後のインタビューを受ける時には、肩に氷を当てている姿が放送されていますね。使った場所は冷やして、炎症が起こることを防ごうという考え方です。日本人は温泉好きでこれまで、暖めることを主体に対処することが多かったと思いますが、固まったところ、血の循環が悪くなったところは暖めるといいけれども、打撲や捻挫、また、炎症を起こして触って見ると熱を持ったような場所は冷やす方がよいということを確認しましょう。
 さて、最後の「自分の使いたいように使う」ということが、なかなか難しい課題です。「力も、動く範囲もほぼ元通りに戻った。しかし、何か以前とは違う感じがして、かばう意識が取れない」という悩みは、けがをした方々がよく訴えられる話です。治療に当たる医師たちも、「歩けるようになったんやから」と、この段階の悩みに対して、さほど真剣に取り合わないできたようなところがあります。私は、この段階は、治療における仕上げの時期だと思います。ある意味では、この最終段階こそ、大切です。「寒くなると古傷が疼く」とか、「天気の悪いことは膝が教えてくれる」なんていうことも、場合によってはこの最後の仕上げが十分でなかったために起こっているのではないかと思っています。ではどうすれば、この段階をうまく乗り切ることができるのでしょうか?
 それは、本当に治ったのかという不安や再発に対する心配という、心の引っかかりを取り去る努力をすることです。自分が自分の身体に自信を持てる状況となれば、それは「本当にケガから復帰した」つまり、「ケガが吹っ切れた」ということになります。本来は、ここまできて初めて「ケガが治った」というべきなのでしょう。そのためには、自分にとって、不安な行動や動作を見つけることが第一歩となります。何をする時、自分は以前のように思いきって使うことができないのか、冷静に自分の身体の調子と気持ちの状態を観察するのです。これだという動作が見つかれば、次のステップです。その動作を意識的に繰り返すのです。そして、心の中の不安を徐々に追い出していくわけです。しばらく時間はかかりますが、苦手な動作を見つけること、そこが最も重要です。足首のケガの場合、最終段階にきて、バランスを取ることがうまくいかないという悩みをよく聞きます。その時には、電車の中でつり革を持たず、片足だけで立っている訓練を勧めたりします。それで、横への揺れやスピードの変化に対応するようにやってみるのです。
 こうして、本当の意味で、ケガから元の身体に近づくことができます。トップレベルのスポーツ選手では、この過程が普通の人より長くかかります。それだけ積み上げられた機能のレベルが高いために、取り戻すのも容易ではないのですね。
 一つのケガを治していくというのは、それぞれの段階で、きちんとした対応をすることが必要最低条件です。その上、治療する方と受ける方との間に信頼関係があり、双方が一緒に努力をしてようやく目的を達成することができます。次回は、ケガの話から、もう少し範囲を広げて、「リハビリテーション」ということについてお話ししたいと思います。
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