専門医の捻挫の対処方法

捻挫の現場での対策は完璧にご理解いただけたと思います。暖めることが最初の手当と思っていらっしゃった方はおられませんでしたか? 暖めると、内出血がますます起こって、腫れも、痛みも、強くなりますよ。これからは、打撲も捻挫も、最初は、是非、氷で冷やしてくださいね。
 さて、私たち整形外科医は、専門家として、こうした捻挫の方に、どのように対処するのでしょうか? 診察に先立って、まず大事なことは、お話をよく聞くことだと考えています。どのような状況で、どんな風にケガをしたか、詳しくお尋ねします。そのケガが起こった背景を詳しく調べることで、対応が変わることもありますし、また、そのチームでの同じケガを予防できることもあるからです。
 たとえば、ご自分では「試合で捻挫した」という風にお話になって、受診されたとします。しかし、よく聞いてみると、実際は、ある瞬間に関節を捻ったのではなく、試合が終わってから、痛みに気付いたという例もあります。ご自分では、この痛みは、知らない間に捻ったからだと思いこんでおられるのです。こういった例では、一回のケガというよりも、使いすぎによる障害の可能性があります。捻挫と決めつけて診察すると、間違った対処を選んでしまうこともあります。また、自分で動いていてとか、着地で捻ってしまったという場合は、もともと捻挫しやすい関節ではなかったかという疑いを持つ必要があります。同じ着地動作でも、人の足の上に落ちてしまったとか、倒れた上に人が乗ってきたという避けられない強い力が作用してのケガと、誰も触れていないのに勝手にこけたというのでは、ケガの起こり方がずいぶん違うでしょう。
 さらに、走っていて、窪地に足を取られて捻挫したというような例では、その方の足を診ることと同時に、施設に連絡をして、その窪みを直していただくようにしないと、次のケガが心配です。高齢者の方が自宅で転ばれたようなケガでも、明かりが不十分だったり、少しの段差があったりすることが原因になることがあります。こうした環境を整えることがいかに大切か、多くのケガの起こり方を詳しく聞いていて、日々痛感しています。
 ケガしたときにどんな感じがしたか、ご自身の感想を聞くことも診療の大きな参考となります。「これまでも何回か捻挫はしたことがあるけど、今回のはずれるような感じで、今までとは違う」とか、「その瞬間、ボキッというような音が聞こえた」などという情報は、ケガの程度を知る上でとてもありがたいことです。音がするような捻挫は、経験上、重症のことが多いからです。
 捻挫してから、「どのような処置をしたか」もお尋ねします。皆さんはもう大丈夫でしょうが、中には、暖めたり、マッサージしたりされる例もあります。こうした対処によって、診察するときの患部の腫れ具合や痛みはかなり違ってきます。たとえば、捻挫して、強い痛みがあったけれども、大事な試合で、しかも、メンバーが足りないために、テーピングをして、無理にしばらく続けて活動したという選手もいます。翌日、受診された時には、患部は腫れ上がっていて、とても辛そうです。一方、あまりに強い捻挫で、歩くこともできないために、氷水につけて冷やし、包帯で圧迫固定を行って、翌日、松葉杖で、足を浮かせて受診された捻挫もあります。両者を見た目で比較すると、前者の方がひどい状態になっています。適切な処置ができなかったために、強い腫れと痛みが残っているのです。しかし、捻挫の程度からいえば、後者の方が重症ということになります。ケガした後の処置次第で、次の日の状態は相当変わってくるので、診る側としては注意が必要なわけです。
 捻挫は、靱帯のケガだとお話ししました。少し、傷んだだけで、数日、無理しないでいると、完全に元通りになるような軽度のもの(これを、普通は狭い意味での「捻挫」と言ってますね。)から、完全に靱帯が切れてしまって、そのままでは関節が不安定となってしまい、活動に影響が出るようなものまで、ケガの程度はさまざまです。そして、その程度によって、対処の方法が変わります。しかし、靱帯は骨のようにレントゲン写真には写りません。どれくらい痛んでいるかを判定するには、工夫が必要となります。
 一つは、実際に関節を捻ってみて、どれくらい捻れるかで判定する方法です。わざとケガした方向に関節を動かしてレントゲンを撮影するのです。比較のために、ケガしていない方も同じようにして撮影します。それで、どれくらい緩んでいるかを評価するわけです。こうした撮影方法を「ストレス撮影」と呼んでいます。関節にストレスをかけるからですね。
 さらに、靱帯の損傷が心配される例では、関節の袋の中に「造影剤」というレントゲン写真に写る溶液を注入して撮影する方法を行う場合があります。足首でも膝でも、靱帯は関節の袋と一緒になっています。そこで、靱帯が切れるほどの重度のケガでは、関節の袋にも綻びができてしまいます。したがって、普通は注入されても関節の中にとどまるはずの液体が、関節の外に漏れ出ることになります。造影剤の注入はそうした関節の袋の破れ目を確認するために行うのです。
 ストレス撮影でかなり緩んでいて、関節造影で、造影剤が関節の外へ漏れだしたという捻挫は、重症の靱帯損傷という診断となります。さて、次回は、いよいよ治療方法をどうするかです。
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