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読みもの

2026.07.03

お寺のBarで心と身体をほぐす夜。私たちが伝えたかった「その人らしさ」のこと。

應典院さんとの出会いと「墓Bar」

上本町でクリニックを開業し、「動いて治す」という私たちの考え方を地域の方々に知ってほしいと、日々の診療だけでなく様々な地域活動に取り組んできました。そんな中で出会ったのが、大蓮寺の塔頭寺院である應典院さんです。應典院さんが開催する「お寺の保健室」や、ケアをテーマにしたフェス「ゆげフェス」などにご一緒する中で、「墓Barのホスト役をやってみませんか?」とお声かけいただきました。「墓Bar」とは、應典院から見える美しい森や石垣、墓地を眺めながら、お酒を片手に語らうイベントです。「テーマは自由にお任せします」との言葉。本当に私たちにホスト役が務まるだろうかという不安もありました。同時に「ここからまた新しい気づきが生まれるかもしれない」という期待も膨らみ、挑戦してみようと動き出しました。

雨と静寂のはじまり

当日は台風が近づいており、雨模様となりました。開店の18時40分、雨空にはまだ少し明るさが残っています。大雨をもたらす厚い雲に覆われていても、その向こうには確かに太陽があるのだと気づかされました。開始から20分間は「サイレントタイム」とし、会話のない静かな時間を過ごしました。空の明るさが少しずつ落ち、ゆっくりと闇が訪れる。その自然の移ろいと重なるように、私たちの心も静かに落ち着いていきました。誰もが思い思いに、心に浮かぶ何かを感じているようでした。その後、ご住職からお話がありました。上町台地と大阪の歴史のこと、西に沈む夕日と聖地のこと、そして人々が集うことの意味。この場から見える墓標、歴史、自然の風景から、「誰もがひとりで生きているのではなく、大きな縁に導かれている」と感じられるような心響くお話をお聞きし、いよいよ私たちの出番となりました。

 

心身一如(しんしんいちにょ)を伝えたい

今回、吉川理学療法士が選んだテーマは、心と身体は切り離せない一体のものであるという仏教の教え「心身一如(しんしんいちにょ)」です。吉川が仕事に限らず生活の中でも大切にしている言葉で、この場に最適だと思い、選択したとのことでした。普段の体操教室や公開講座など、大勢の前で話すことには慣れているはずの吉川ですが、この日は普段みることのない緊張の面持ちで話し始めました。話が進むうちに、ふと会場の空気が変わる瞬間がありました。それは、8年前に吉川自身の身に起きた、心身の不調という経験に触れた時でした。吉川はその不調を感じたときに「この経験はいつか誰かのためになる」と、当時の記録を克明に残していました。そしてそのいつかはこの時でした。この墓Barの話をいただいたときに、即このテーマを思いつき、同時に縁を感じたようです。自分の経験をまっすぐに語る、そしてその物語に静かに耳を澄ます。「自分の経験を誰かの役に立てたい」という想いが心に届いた瞬間でした。

 

身体の力

吉川が体験した心身の不調――その原因の一つに呼吸がありました。こうした不調の際、一般的には呼吸法そのものに着目することが多いかもしれません。しかし、彼は理学療法士として、まず呼吸を行う器である胸郭(胸椎・肋骨・胸骨)を柔らかくすることに徹しました。構造としての胸郭をやわらかくし、呼吸がしやすい状態をつくることで、自然と深い呼吸を獲得していきました。その深い呼吸が、やがて自律神経や身体の不調を整えていきました。この回復の経験に基づいて、後半は参加者の皆さんが自宅でできる、効果的な胸郭ストレッチの方法をレクチャーしました。

 

その人らしさに気づく

第2部は「その人らしさ」に関するグループワークを行いました。二人一組でインタビューを行い、「その人を表現する活動」を聞き出しながら「その人らしさ」を言葉にするという試みです。私たちは、自分自身の「その人らしさ」に意外と気づいていないものです。また、親しい間柄だからこそ、あらためて言葉にするのが気恥ずかしいこともあるかもしれません。しかし、今日出会ったばかりの他者に自分のことを話すことで、新しい見え方が生まれ、「人生に引退はない」「ご縁があればどこへでも」「想いを伝える人」など、色とりどりの「その人らしさ」に触れることができました。

 

 

私たちは普段、運動器を切り口とした専門的な講義や、体操のレクチャーといった企画を行うことが多くあります。でも、今回は全く違いました。お寺という非日常的な空間で、しかも夜、お酒も交わす場で、それぞれの「その人らしさ」について対話をし、身体を動かしました。会が終わった後も、初めて出会った者同士、話が尽きない様子を目の当たりにし、誰もが豊かな時間を過ごせたのだと、心がじんわりとあたたかくなりました。まさに、人と人との関係を起点とするケアの原点を体験したような気がしました。この素晴らしいご縁と経験に深く感謝し、これからの日々のケアにしっかりと活かしていきたいと思います。

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