一般病床か療養病床か 

 各医療機関が一般病床でいくのか、療養病床とするのか、意志決定の期限である8月末が近づいている。しかし、原稿を書いている現在、手続きした施設は全国では30%未満である。大阪では約4分の1しかない。病院協会のアンケートでは、まだ進めていない理由として「近隣の施設の動向を見て」というものが一番多かった。
 厚生労働省は医療機関の機能分化・重点化・効率化が、質の高い効率的な医療提供体制の構築には必要だと基本方向に掲げている。また、財政主導と批判されているが、経済財政諮問会議や総合規制改革会議において掲げられた「徹底的な情報開示により利用者が選択できる体制を整え、自由競争から生まれる医療改革」の考え方にも合致する。
 行政の方向性だから従うというのではなく、一人の医療者として、また、ヘルスケア機関の経営者としてもこの機能分化への方向性には頷く点がある。一人の医療者、一つの医療機関で、継続したヘルスケアのすべてをカバーできるはずもないことを痛感しているからである。良質のヘルスケアを効率的に地域で提供する体制を確立するには、「各施設が自分たちの特性を明らかとして、それぞれの精度を上げること」、そして、「それぞれがうまくつながること」が基本条件である。
 一つの疾患を治療し、対応していく過程は、いくつかの時期に分けることができる。急性発症の場合、救急にて対応するいわば「超急性期」からケアは始まる。ここでは、救急に搬送するシステムの精度が問われる。すなわち、治療機関につくまでの「現場における処置」と「適切な治療機関と優先順位を選択・決定するトリアージの能力」の完成度の高さである。疾病の性質や重症度により、もっとも適した機関が一定の距離の範囲内で選択されることが肝要である。重装備の施設に軽症患者が、逆に、軽装備の施設に重症患者が運び込まれることのないようなシステムが必要となる。
 それぞれの疾病に応じて、初期の治療に必要な診断・治療に関する職種と機器が備わった「急性期」施設に搬送されることになる。そこでは、医師を主体とした治療チームが的確な診断のもと、適切な治療が迅速に提供されることが条件となる。そして、入院の時点から、パスなどのツールを用いて、退院の条件や時期が設定される。
 生命的な危機を脱し、必要な処置を終えて安定期に向かった対象患者は、次に、元の生活への復帰に向けた対応が必要となる。診療報酬上の誘導もあり、急性期施設への入院期間はどんどん短縮している。それに伴い、次の病期である「回復期」に搬送される対象患者は、医学的ケアの濃度の高い状態で転院する傾向となっている。したがって、この時期を担う機関の重要性はますます増大している。しかし、急性期医療機関がその特性を高めていくスピードと、次の時期を対応する施設に関する質や量には大きな隔たりがある。つまり、「回復期」を担う施設の絶対数が不足していると同時に、質に置いての検証が十分ではない。たとえば、急性期に併設して回復期を持った施設では、それぞれの病棟の入院と退院の基準が曖昧となると言われている。急性期病棟からの退院に際して、医学的な観点からの退院基準を利用するより、むしろ、効率的な病床利用の理屈を優先させるからである。それに影響されて、回復期病棟では、一定の条件での入院ではなくなる。急性期施設が、早く退院をさせる動きが進んで、それに対応しようと回復期が努力することで、機能分化とともにその中身の充実が期待できると期待するが、その基準がお互いに曖昧となるとこの体制が成熟しないおそれがある。当然、個々のスタッフについても成長が期待できない。また、他施設からの回復期病棟への転院に際しても、問題がある。受け入れには、直接、回復期病棟へ入院させるのではなく、一旦、急性期病棟に入院させることをルールとしている施設が多い。全身管理ということで一通りの検査を行ってから、回復期病棟へ移すのである。回復期リハが定額制であることを考えれば、経営上有利なシステムだと合点のいく話だが、これで連携と呼べるのだろうか? また、本当に回復期の病棟の質が保てるのだろうか?
 リハビリテーション病院など、単独で回復期リハ病棟を立ち上げた施設もある。ここでは、併設して回復期病棟を持つ施設とは異なる努力が必要となる。まず、入院数を確保しなければならない。近隣の質の高い急性期病院から早期に退院してくる患者さんを受け入れるのである。そうした施設との連携を進めるための渉外活動が不可欠となる。受け入れには、その患者さんのリスク管理から始まり、回復期施設におけるケアの目的や方法の説明を入念に行い、理解を得ることが要求される。
 これは、急性期ケアにおける「専門病院」でも同様の話である。単科で専門性を持っての運営は、複数の専門家がともに働く施設にはない苦労と工夫が必要となる。簡単に相談したり、転棟できないだけ、管理をきめ細かくする必要に迫られるのである。結局、「単独機能を持つ施設は、質で勝負」しないと存在意義が失われる。
 回復期ケアを担う施設では、退院の管理も重要である。うまく居宅に帰ることができる例もあり、また、引き続いて維持期の施設ケアが要る例もある。ここでも、連携である。相談員などの現場のスタッフが、自分たちが関係する組織の特性を熟知していることに驚くことがある。ある意味で、見事にランク付けを行っているのである。ある状況に置かれた患者さんに、どの施設がふさわしいか、彼らの情報は十分である。的確に各事例に適合する施設を選択する。逆に、自分たちがどのように評価され、位置づけられているか、心配になる。ともかく、自施設の機能を絞り込み、それを尖鋭化・重点化させていくとともに、他の機能を持つ機関と信頼のある関係を作っていくことが問われている。こうした方向性をリードする管理者の責任は重い。