逆転しているサービスと畏敬

 先日、当法人のトランスファー部隊と食事をする機会がありました。彼らは、送迎の担当と車輌や駐車場の管理をしています。送迎は通所系のサービスのほか、公共交通機関の最寄り駅が遠いといううちの特殊事情で、法人の定期バスも彼らの業務です。
 彼らは、長く勤められた仕事を止めた後、何か役に立つ仕事と働いていただいている方が多く、ほとんどが非常勤で、平均年齢は55.5歳です。病院勤務の経験者はおられません。ビールを飲みながら、いろんな話をしました。
 「先生、うちの上司は、患者サービスが一番や言うて、うるそうおまんねん。けど、いろんな場面がおまっせ。時間で発車して、出口で、外の調剤薬局から出てきた人に『待ってくれ』言われたときは、どないしたらよろしおまんねん?足の悪い方やと、乗るのに時間かかりまっせ。乗ってる人もお客さんでっしゃろ。電車の時間予定してる人もおるかもしれまへんがな。後ろから、信号待ちの車が出てくるときもありますわな。この人にも迷惑でっしゃんか。乗せんと行ってしもたら、投書されるかもしれまへん。難しいですわ。私は、運転してるもんに任せて欲しい言うてまんねん。どないでっか?」乗客数や交通状況で、判断したいというのです。マニュアル通りには行きません。行ってしまった場合は、電話連絡して、スタッフから積み残された方へのフォローしてはどうかという意見も出ました。
 いつもは老健の通所リハに来ていて顔見知りの人から、病院受診の日に、送って欲しいと言われた。担当者に相談したら断るように言われたけど、何とかならないのかという意見も出ました。これもその日の状況によるのではと話し合いが続きました
 朝の駅からの一便は職員専用となります。表示はしていても、そのルールは内部のものです。利用者の方が乗ってこられて、「職員専用です」と紋切り型の説明をされ、降りてしまわれるという出来事もあったそうです。職員が「今度からお願いします。どうぞお乗りください」と取りなしても、乗られなかったそうです。これからもあり得るこうした事態に、運転手はどんな説明をしようかという話になりました。上手な表現を考えましたが、「みんなの前で注意されたら、かっこわるいしな、後から言う方がええかもしれへんな」という意見に落ち着きました。
 そんな場で、これまで製造業に勤めていた方から「先生、世の中にはこんな商売もあるんでんな」と話しかけられました。「私らの人生、怒られてばっかり。納期に遅れて怒られ、何千個のうち一個でもおかしかったら、ぼろくそに言われて、何で納めに行って頭下げなあかんのやろて、何度も思いましたで。そやけど、病院はちゃいまんな。私らみたいな運転手にも、降りる時、ありがとう言うてくれはりまんねん。びっくりしてもうてね。家帰って、おかんにすぐ言いましたわ。病院の人らは、やっぱり、どっかおかしなってくるで、あんだけ頭下げられたら、あほでも偉い気分になってくるもんな」これには、堪えました。仕事をさせていただいているのに、頭を下げられ感謝される、頭の中では、それは奇妙なことだと理解しておりながら、いつしか、感謝されることに慣れきっている自分や同業者がいることを思いだしたからです。サービスの最前線で働く方から、ご本人や利用者の本音をこれからも聞かせてもらおうと、この機会に感謝しました。