リハビリテーション 安静からくる障害

 数回にわたって、リハビリテーションについて、お話ししてきました。その中でも、日本の医療制度の中で、リハビリテーションについての認識が諸外国と比べて遅れている点があることを指摘しました。それは、医療者の認識に負うところ大きいのですが、利用者の方にも課題がないわけではありません。たとえば、「安静」という指示に関してです。
 病院に入院したような場合、「安静」といえば、ベッドから動くことは禁止されます。「絶対安静」という言葉もあります。こうなると、トイレも行けませんし、食事も寝たままで行うことになります。つまりは、身体の活動を制限するという指示です。精神的な興奮も良くないということで、テレビを見ることを禁ずることもあります。こうした「安静」の考え方は、医師だけが行うのではありません。非常に、一般的に行われています。家族の中で、熱が出てうんうんと苦しそうになるほどではないけれど、鼻声となったり、鼻水が出ていたり、少し、喉が痛んだりするような症状をみることがあります。「風邪のひきはじめとちゃうか」などと、判断しますね。その時、普通に行われるのが、安静であり、休養です。「今日は暖かくして、早く寝なさいよ」と母親は言うでしょう。ご主人に対しては「無理するからや。ちょっと身体休めんとあかんで」と小言の一つも言いたくなるかもしれません。
 おばあちゃんとなると、もっと大げさになります。「老人会の旅行やて? そんなん、あかんあかん。家でじっと寝とき」と安静にすることを求めるでしょう。しかし、この活動制限がどれくらい人の身体に影響を与えるか、医療者も一般の方もあまり認識してこられなかったと私は考えています。動かないでいること、それは確かに、安全で、確実な方法ではありますが、動かないために、身体が弱っていくことを忘れてはなりません。その影響は高齢となるほど大きくなります。2、3日寝込んだとするでしょう。それから起き上がって、普通に歩けますか?人混みに出ていけますか?無理ですよね。足元が覚束ない感じがするでしょう。それが、安静による影響です。年を取ってから、同じ期間寝ていたとすると、もっと大きな影響を受けることが予測されます。筋力だけではなく、平衡機能など、さまざまな身体の機能が、動かないでいるという「安静」によって障害を受けるのです。こうした障害を元に戻す技術やその基本となる考え方がリハビリテーションです。しかし、まずは、機能を低下させないような対処方法を最初に考えることが、機能低下の予防策となります。ですから、安静はできるだけ短い期間とする工夫が要ると思います。
 この点、最初に申しましたように、医療者も十分、説明せず、漫然と無理しないようにという指示を出してしまっている例もあり、反省しなければなりません。ご家庭においても、「使わなければ弱ってしまう」という当たり前の原理をみんなが忘れないようにして欲しいと考えています。起こってしまった機能障害を対処するために、優れたリハビリテーションのシステムを作っていくことも大事ですが、一番は、こうしたリハビリテーションを受けるような事態とならないように普段からの心構えが求められると思います。
 9月に、北米でのリハビリテーションの実際を見るために、出張してきました。カナダのトロントに滞在中に、例のアメリカにおける同時多発テロという大事件が勃発しました。予定していたアメリカの見学はできませんでしたが、次回はその時に感じたことをご報告したいと思います。
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