チームを組んで取り組むということ

スポーツ整形外科

 整形外科の中でも島田病院ではスポーツ選手に起こるケガや障害を予防し、また、治療し、競技復帰まで医学的に管理するという「スポーツ整形外科」に積極的に取り組んでいます。一般人に起こるケガの対処とどこが違うかといえば、最終的な機能上のゴールです。日常生活ができるという機能では彼らの治療は終わりません。あくまで、競技において、痛みなどの症状なく、元通りの能力を発揮し、しかも再発しないことが目標となります。  したがって、各競技特有の動きや身体の使い方を知っておくことは競技復帰をサポートする私たちにとっては、重要な要素となります。

 そのせいもあり、各種のスポーツ競技における特性を自分の目で確認することは、現場復帰へのアドバイスを送る上で大切なこととなります。週末に時間があると、テレビで放映される試合をじっくりと観戦し、学習します。家人には、のんびりテレビに向かっているように見えるかもしれませんが、立派な仕事なのです。先日は、夜遅くまでゴルフの中継に見入ってしまいました。

ゴルフという競技

 ゴルフはなかなか面白いスポーツです。いろんな競技方法がありますが、要は、小さなボールをある地点から決められたホールへ道具で打って運ぶのに、何回打ったか、少ない方を勝者とする競技です。バカにしていても、実際にやってみると、止まっている球を打つことがこんなに難しいかと、つい深みにはまってしまうというのがパターンのようです。

 15世紀には、スコットランドで兵士が夢中になりすぎたために当時の宿敵イングランドに戦争で敗れたと、王様から禁止令が出されたそうです。それが、約50年後、別の王様は自分がやりたかったために、この禁止令を解いたというオチまでついています。今では、自然破壊や除草薬の散布による環境汚染の問題も指摘されてはいますが、多くの愛好家を引きつける競技となり、たくさんのゴルファーが楽しんでいます。

 こうした趣味のゴルフと違って、プロやトップアマの選手たちは、春から秋にかけてのシーズンは、毎週のように世界各地で行われるトーナメントでしのぎを削っています。そして、中でも世界で戦うゴルファーにとって、目標であり憧れとなっている「メジャー」と呼ばれる大会が4つあります。男子では、「マスターズゴルフトーナメント」、「全米オープン」、「全英オープン」、「全米プロゴルフ選手権」、です。

全英オープンゴルフ

 そのうちの一つ、「全英オープンゴルフ」が7月20日から23日まで、イギリスの西海岸、アイリッシュ海に面するロイヤルリバプールG.C.で開催されました。このトーナメントはもっとも長い歴史を誇り、第1回は1860年にプレスト・ウィックで開かれており、今年が第135回です。

 6人の日本人選手も出場し、期待を集めましたが、何といっても注目は現在ゴルフ会最強の男と評価の高い「タイガー・ウッズ」でした。彼は5月に、ゴルフを教えてくれ、肉親である以外に、コーチであり、友人でもあった最愛の父親を亡くしました。練習も充分にできず、ゴルフ自体への意欲も薄れるくらいの心の痛手も被ったといいます。そのせいもあり、6月中旬の全米オープンではプロ転向後初となるメジャー大会での予選落ちを経験したのです。ウッズにとっては、再起をかける大事な大会です。

 昨年のこの大会では、ウッズは、初日から単独首位に立ち、一度もトップを譲ることなく2位に大きな差を付けて圧勝して、メジャー4大会を2度以上優勝するという「ダブルグランドスラム」をも達成しました。今年は2連覇がかかった試合でもありました。

タイガー・ウッズの優勝

 試合は、前日までわずか1打差でリードしていたタイガーが、盤石の強さで一度も追いっかれることなく、勝利を手にしたという経過でした。しかし、最終ホールで最後のパットを沈めたタイガーは、雄叫びを上げた後、キャディーのスティーブ・ウィリアムスに抱きつき、号泣しました。その姿に、最強といわれ勝つことが当たり前とされるトップ選手にかかる重圧のすごさと、それをはねのけた精神的な強さに感動しました。

 タイガーの超人的な強さとともに、私が、そうなんだと納得したシーンは、彼が優勝してキャディーに抱きついた姿でした。

チームの意味

 キャディーのスティーブ・ウィリアムスは、過去に、グレッグ・ノーマン、レイモンド・フロイドといった有名選手のキャディーとして活躍しています。そして、1999年春にチームタイガーの一員となりました。ウッズはスティーブを評して「彼は考え方がいつも前向きで、僕の気持ちをのせてくれる」と語っています(タイガー・ウッズ オフィシャルウッブサイトより)。「僕が彼をのせ、彼も僕をのせる。僕らは一緒に楽しい時を過ごす。それは僕の調子に関係なく、たとえ僕の調子が悪い時でもその関係は変わらない。」スティーブもウッズについて、「何か、運命っていう感じだね。それぐらい相性がいいんだ。一緒にいるとお互いすごく冷静になれるんだ。僕らはとても良い親友になったね。いっしょに外出もする。こういう事は、やろうと思って出来る事じゃない。自然に起こるものなんだ。」と述べています。

 優勝を分かち合う二人の厚い信頼関係が伺えます。他の選手たちもプレーを終えると、一緒にプレーした選手だけでなく、キャディーとも握手をし、お互いの健闘をたたえ合っているように見えました。つまり、選手とキャディーの関係が少なくとも主人と部下といった上下のものではないという確信を持ったのです。

 私たち医療の世界では「チーム医療」という言葉がよく語られるようになりました。しかし、現実には、なかなか本当の意味で連携の取れたチームに出会うことが難しいのが現実です。なぜかをいつも考えているときに、選手とキャディーのような関係がないからだと思い至ったのです。すべてというわけではありませんが、医師と看護師やリハスタッフの関係はヨコというよりタテに近い印象が未だにぬぐえません。

 まして、患者さんと医師との間には、大きな隔たりがあると痛感します。医療者同士、そして患者・家族と医療者とが、本当の意味でチームを組むことができれば、もっと良いケアが提供できるようになると思います。そのために、お互いがなすべきこと、それを考え実践』ていく必要性を改めて感じました。

 スポーツ観戦から学ぶものは、まだまだありそうです。