このままでは危ない「日本の社会保障(医療保険制度)」

 人口統計を見ると、日本人の人口構造は、極端に変化していくことが分かります。年齢別に横棒のグラフにしたものです。人口の多いところが横に飛び出すような形となります。今は50歳すぎのところにピークがあり釣り鐘状をしています。あと20年位すると、その多い世代が上の方に動きます。今、中年の人が老年期になります。私のそのうちの一人です。その頃、人口に占める年寄りの割合は、世界の中でも、最も高い値になるといわれています。次の世代が少なくなっているからです。近年の少子化のためです。この時代になると、老年期人口の増加に対して、その人たちを支える働き盛りの人口が絶対的に少なくなります。今の社会保障の制度では、全く対応することができません。

 そのために、年金制度も手が加えられようとしています。医療保険だけでは賄えないと介護保険が創設されました。それでも、学者の中には、もっと根本的な変革をしないと立ちゆかないと主張する人が増えています。政治家は選挙が近づくと、人気取りの政策に終始します。まずは当選しないと「ただの人」になってしまうからです。いつまでも問題点の先送りはだめだという機運も生まれてきました。
それにしても、あの人口構造の変化を示したグラフをじっと見ていると、気持ちが穏やかではありません。自分の子供たちの世代には、どのような時代になるのかを考えるからです。老年期の人を支えるために、働いている現役世代からのお金を当て込んでいるのが、現在の制度です。その現役世代の人口が少なくなるのです。どうすればよいのでしょうか?

 今よりももっと、社会保険料を取ることになるかもしれません。給与から引かれる額が増えます。一緒に負担している企業も、福利厚生費が増え続けます。不況に追い打ちをかけるような政策です。税金を上げられるかもしれません。たとえば、消費税10%を納得しますか? 消費活動は冷え込むでしょう。また、医療費の窓口支払いは1割どころか、3割、4割と上昇していくでしょう。気軽に医者にかかることができなくなります。受診抑制となる可能性があるのですね。世界の中で、優れていると言われる日本の医療保険制度も風前の灯火です。保険でカバーされる治療はどんどん少なくなるかもしれません。風邪などで受診することはできなくなるかもしれません。湿布などの外用薬も保険からはずされる可能性もあります。そうなると、薬局で、自分で薬を買うしかなくなります。イギリスのように、白内障や人工関節の手術の順番を待つのに、数年かかってしまうような事態が起こるかもしれません。さらに、年金の支給額は減額され、支給年代は先送りです。

 若者からの未来は真っ暗ではありませんか。働いても、自分の手元に使えるお金は少ししか残らず、高齢者のために取っていかれるとしたら、一生懸命働くでしょうか?
何とか、将来を悲観することのないような知恵を働かせ、その事態に備えなければなりません。国民一人一人の創意工夫が必要かもしれません。私は医師であり、病院経営者ですから、ヘルスケアの分野で何ができるのか、考えてみました。まず思ったのは、無駄の排除です。私は、今の医療には無駄がいっぱいあると思っています。保険制度に頼って、使いすぎの傾向にある医療費の使い方をもう一度見直す必要があると感じています。それは、利用者である国民にも反省を求めたいと思いますし、当然、治療に当たる医療関係者は、医療費の使い道に神経質になるべきだと思います。つまり、本当に必要な人に、必要なケアを行うことが、厳格な基準を持って運用されなければならないということです。医療費が、保険料、税金、自己負担の三つから成り立っていることを、見つめ直さないといけないと思うのです。窓口で一割の負担をしている人は、その残りの9割を、他の人にお世話になっているという意識がいると思います。医療を受ける側も、提供する側とともに、無駄な使い方をしないよう努力するべきだと思います。

 それでも、リハビリテーションなど、日本の医療ケアは世界標準から見て、遅れている分野もあります。無駄を廃して、本当に必要な良質のケアに財源が振り分けられるような力強い再編成が求められています。ささやかながら、自分のできる範囲で、子供たちの未来に少しでも光明が差すように、活動を続けたいと考えています。